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建設論評・休業と失業の両天秤
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新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)防止策として採られた緊急事態宣言を受けて、企業は営業の自粛に追い込まれている。それで当面の間、休業のやむなきに至った。その間、従業員には休業手当を支給するよりも失業手当を受けた方が得になるという理由で、従業員を解雇することに決めたと判断する企業が出てきたのだ。
休業は時限的なものだから、再開した時は必ず全員を再雇用する、とその企業は確約して書類に署名させたそうだ。
この企業は建設会社ではないが、これが先例となってまかり通るようになったら、この考えに倣(なら)う建設会社が出てくる可能性があるだろう。
企業側の都合で従業員を休ませた場合には、直近3カ月の賃金の平均金額を支払う法的な義務がある。これが休業手当である。金額と期間には上限がないので、休業が続く間、企業は従業員に手当の支払いを続ける義務がある。国が定めた要件を満たせば、企業は国から助成金を得ることができることになっている。
だが、国が発令した緊急事態宣言が自粛にとどまっている限り、休業した企業が休業補償に支出した金が補填(ほてん)される保証はないらしい。自発的な休業の場合では、国が定めた助成金取得の要件を満たしているか、確かな判断ができないというのである。
一方、失業手当は、直近6カ月の賃金の平均金額の約5-8割が国の雇用保険から支給される。その金額と支給期間は、年齢や雇用保険の加入期間によって個々に異なっている。
わが国では、解雇に関する原則がある。「その解雇が必要なのか」「企業は解雇を避けるために努力をしたのか」「解雇する人選は妥当だったのか」「労働者側としっかりと話し合って理解を求めたのか」の4原則である。
雇用を保証するこの風潮に慣れた従業員は、わが身の雇用環境に関する認識が麻痺する傾向があるようだ。そうなると、企業側が掲げた解雇の理由を把握することを怠り、解雇4原則の実行を確かめずに、法的に無効な通告を安易に受け入れて解雇されてしまう恐れが出てくる。
冒頭に挙げたこの企業の言い分に対して、所管の官庁では、個々の人によって金額が違う、必ずしもその企業の言うようにはならない、と指摘しているそうだし、そのほかにも、その是非や可否をめぐってさまざまな見解が交錯しているらしい。ということは、この企業は期せずして、格好な判断材料を提供したことになる。
とにかく、いままで経験したことがない状態に直面した国が社会に促す自粛と強制を天秤にかけているから、企業もまた、何でもありとばかりに利害得失を天秤にかけて判断し、その結果、人々を振り回して不安に陥れるのである。
この企業が天秤(てんびん)にかけて判断した問題は行政の判断だけではなく、法廷の場で黒白の決着をつけて、判例として確立すべきであろう。
悪例が先例として横行しないように、企業や人々を迷わせることがないように、国には毅然たる決断を求めたい。 (康)
残り50%掲載日: 2020年5月7日 | presented by 建設通信新聞