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  • 建設論評・いま、何が問われているのか

     新型コロナウイルス感染症の問題はまだ予断を許さない状況にある中、早くも「アフターコロナ」へと関心が移り始めているような気配である。テレワークなど、デジタル技術を背景に、コロナ禍を克服した社会を思い描いているようだ。ウイルスとの共存が不可避であるならば、デジタル社会をさらに進展させることで新しい現実を構築する絶好のチャンスであるとする意見である。

     

     たしかに、デジタル技術がわれわれの社会活動に絶大な変革をもたらしてきたのは事実だが、人間同士の生のコミュニケーションがなければ、人間の社会活動は成立しないことを忘れてはならない。デジタル空間も人間の脳が編み出した世界なのであり、脳は身体とつながって現実の世界を認識する。そこにデジタル技術の強力な支援があったとしても、人間の身体的感覚が人間の創造力の原点であることには変わりはない。人間が社会活動を営む中で、情熱や夢などさまざまな感情や思いが抱かれるものだ。個人の活動であっても、組織的、あるいは社会的なものであってもそれは同じことであろう。当然、そうした感情や思いは矛盾や不調和を引き起こすこともあるだろう。矛盾のない世界などあり得ることはない。

     

     端的に言えば、社会とは、生身の人間同士のさまざまなコミュニケーションや対話、行動などの行為の総和である。デジタル技術は、そうした行為を円滑に進めることを可能にしたり、そこに生まれる矛盾や困難な課題を乗り超えたりするためには極めて有効なツールであるが、それ以上の存在ではないはずだ。

     

     インターネットによりあらゆるデータが容易に入手できるようになったことで、世界との情報共有化は飛躍的に進んできた。その結果、無限の可能性が生み出されているのは確かだ。しかしながら、その根底には人や組織の活動、そしてその活動を生み出す元となった情熱やさまざまな感情、そしてアナログ的な作業などがあるのである。

     

     一方、建築の世界でも、さまざまなデジタル化が進行し始めている。そうした動きを停滞させることがあってはならないことは言うまでもないが、新型コロナ以降、建築の概念が大きく変わり、ついには建築という形式さえ持たないところに行き着くのだという、デジタル化を過大評価した議論があるのはいかがなものか。あまり根拠のない無責任なことを言わない方が良いと思う。

     

     建築の根底には、人間との空間的つながりがある。快適な空間とは人間の身体的感覚、感性に対するものなのであって、デジタル空間とは次元の異なる世界である。空調や照明、あるいはその他の利便性などのためにデジタル技術が活用されることは大いにあるが、それがそのまま身体に見合った空間を生み出すものではない。

     

     建築に求められる課題が、デジタル技術によってどのように変わろうとしているのか。デジタル技術の進歩によって社会が変わることが必然だとしても、それは建築の空間的本質とは無縁であり、身体的空間を乖離(かいり)させることはない。(児)

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    掲載日: 2020年5月25日 | presented by 建設通信新聞

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