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  • 建設論評・自粛に頼る危うさ

     緊急事態宣言の発令以来、巷間(こうかん)では自粛の要請か命令の強制かの議論が頻(しき)りである。

     

     この議論には、肝心の疫病対策や行政のあり方を超えて、日本人論まで飛び出す有様である。

     

     自粛で対応できるのは日本人的な美徳の賜だと日本人自身が自賛する一方で、外国では、日本人は自律的にルールを守るので国が法律で強制する必要がないのかもしれないなどの論調があるらしい。

     

     だが、コトの原因を国民性や民族性のせいにしたのでは、真相の調査も検証も無意味になり、向上・改善につながらないとの指摘もある。

     

     その自粛の効果を当てにすることにはいくつか弊害がある。

     

     第1に、不平等が発生することだ。要請を無視して抜け駆けした者が得をして、要請を守った者が馬鹿を見ると、彼らも要請を無視するようになる。

     

     第2に、自粛で被る打撃が不公平なことだ。自粛で被る損害を回復する術、例えば損害賠償の要求や訴訟に訴える手立てを持たない弱者への政治的法律的配慮を欠くと、その不満が爆発する。

     

     第3に、発令者が結果責任をとらないことだ。要請とはお願いである。お願いの諾否の判断は発令者の責任ではないから、お願いが守られなくても発令者の責任を追及できない。責任を伴わない発令者たる為政者は人心を失い、秩序は瓦解(がかい)する。

     

     第4に、自粛の効果に同調圧力を当てにする心理があることだ。日本人は「言って良い時、悪い時」のその場の空気を読む心理が働く。その場の空気が同調圧力である。この空気に逆らう直言は禁じ手なのだ。

     

     だから、職場の会議などで唯一人異議を唱えることは相当な覚悟がいる。定数いっぱいの候補者を立てて無投票で済ませていた地方選挙の慣行は、争いを避けようとする同調圧力が引き金だった。同調圧力に逆らった咎(とが)が村八分である。戦場で特攻に志願したり、玉砕を選ぶ心情には、同調圧力の影響があったかもしれない。

     

     現代の日本人も、そのマナーや自発的な協力心の発露の源泉は同調圧力にあり、発令者はその存在を当てにしているのだろうと考えるのが自然である。

     

     為政者が自粛に頼る理由は、強制力が生じると損害賠償の根拠が起きて、訴訟リスクが高まるからである。その財政的負担を避けるために、同調圧力で心理的に追い詰めるような犠牲を人々に課してはいけない。

     

     そもそも、同調圧力は個人の自由意思を封じ正論を抹殺する。これは、民主主義の侵害なのである。

     

     その認識のもとに、爆発的な感染拡大の危機にさらされるような、いざという時には人権を制限してでも災禍を果断に防ぐために、命令を無視した者には処罰を施して強制力を課すことは止むを得ない、と言えば過言か。

     

     緊急事態宣言の発令以来、政府も自治体も事態を様子見しながら、後手に回った対策の逐一投入を続けてきた。当面、その拙速ぶりは止むを得ないだろうが、こうした「出たとこ勝負」にならないような法的整備が必要だ。

     

     何事も平時こそ、その配慮、予防措置が求められるのである。

     

    (康)

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    掲載日: 2020年6月9日 | presented by 建設通信新聞

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