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九州基盤の企業トップ対談・松尾建設社長 松尾哲吾氏 福山コンサルタント社長 福島宏治氏
// 本文の表示 画像がセットされていない場合は、画像分の余白ができてしまうのでtxtクラスは使わない。 ログインしていない場合も画像は表示しない。?>【松尾氏・ICTは地場企業の生産性向上が大事/福島氏・地域産業として常に災害対応考える】
日本はいま、激動の時代を迎えている。毎年発生する災害に加えて、ことしは新型コロナウイルス感染症への対応に追われ、働き方だけでなく社会構造までも見直す転換点を迎えた。建設業に目を向けると、災害時の対応だけでなく、地域の生活や経済を支えるインフラの役割が高まる一方で、就業人口は減り続け、担い手不足、生産性向上といった課題に直面している。この傾向は地方ほど顕著だ。九州に基盤を置きながら近年は全国のインフラに関わる仕事を展開し、かつ建設業界とコンサルタント業界でそれぞれ主要な役職を歴任している松尾建設の松尾哲吾社長と福山コンサルタントの福島宏治社長に、業界を取り巻く環境や課題、解決に向けたアイデアを話してもらった。
◆松尾氏・互いに技術力の研鑚を/福島氏・分野越えた交流が重要
--それぞれの現状と業界が抱える課題をどのように考えているか
福島 国土強靱化関連緊急対策の延長が検討される中でジレンマもある。発災直後から道路啓開などの初動対応はしているが、長期間にわたる復旧・復興事業では、地場企業の手が足りず、九州以外に本社を置く企業がメインプレーヤーになっている。地元では人員が少ない中で既存業務を止めることなく災害対応にどのように貢献すればいいのかを地域産業として常に考えている。
また、コンサルタント業界には将来需要予測部門など建設現場経験を持たない人員もいるので、新人のころから実際の施工現場経験を重ねておくべきだと思う。個々の企業では難しいため、若手を中心とした勉強会や講習会、日本橋梁建設協会やプレストレスト・コンクリート建設業協会と協力して開いている橋梁三カ会など業界全体で動いている。
松尾 新たに施行された新担い手3法は働き手に焦点を当てており、就業環境の改善に向けて一歩進んだ印象だ。地方ほど人手不足は激しくなり、労務単価の高い都会に人が流れる傾向にあるので、制度的に過疎を生まないよう取り組まなければならない。
働き方改革を推進するために生産性向上が求められる中、国工事では週休2日の取り組みが進んでいるが、工事発注後に設計不備や計画見直しなどが原因で工事の着手遅延・中断する例があり、さらに契約内容が変わり工期が延伸することもある。
近年は、インフラの重要性が社会的に認知されている。5年前に170人ほどだった佐賀県内の土木を専攻する工業高校生が2割増えて205人になった。一方で、建設業に就職する卒業生は全体の45%で、地元に残るのはその半数程度しかいない。
福島さんが話したように建設業でも現場を知らない人が内勤の人を中心に増えている。ICTがそれを早めていると感じており、慎重に育成しなければならない。
--コロナ禍で働き方は変わったか
福島 緊急事態宣言発令当時は、首都圏ではほぼ全面的な在宅勤務をすることができたが、九州地域では難しかった。大きな設計図面を在宅パソコンで稼働させる難しさもあったが、加えてウェブ対応できない自治体も多く、出社や対面打ち合わせが結構残った。当社は、現在もテレワークなどを併用中だが、地場企業は通常勤務に戻った会社が多い印象だ。
松尾 建設業はほとんどの会社で現場を止めることはなかったのではないか。ただ、その代わり現場にウイルスを持ち込むことがないようにコロナ対策をしており、コロナで働き方が何年分か一気に進んだはずだ。
当社も1年前に導入したZOOMをコロナが流行するまで使わなかったが、建築分野では施工手順の検証などで本社と全国の現場をつないで話すようになった。土木分野についても導入するきっかけになった印象を受ける。
--ICTの活用について
福島 建設生産システム全体の省力化や効率化、収益力向上につながるので、2023年のCIMの原則化に向けて準備しなければならない。ただ、現状ではまだ実用段階に達していない。規模の大きな会社だけが使えるのではなく、地域の担い手が使えなければ業界の生産システムとして、意図した成果を発揮できないと思う。
松尾 当社は、土木より建築の方が進んでいて自分たちですべて3次元化している。現場でもiPadを活用して生産性が向上し、事務の手間が省けて残業時間が減ったと聞いている。一方の土木分野は大型案件しか進んでいない。小規模案件でいかに対応し、地場企業がICTを使って生産性を上げることが大事だ。オプティム(佐賀市)と協力してiPhoneを使った点群測量技術の開発を進めており、地場企業の負担を減らすよう考えている。ICTに限らず、佐賀県建設業協会では、新入社員研修や35歳以下の人材を対象にした勉強会を開いている。
--担い手3法への対応は
福島 建設コンサルタント業界の20代から30代の定着率は70%程度で、離職者の大半は転勤のない市町村の公務員に転職している。こうした状況を踏まえ、地域限定勤務コースの導入や自宅に近い場所にサテライトオフィスを設置して仕事ができるような制度も試行を開始した。業務一辺倒でなく、ライフプランの中に会社の勤務があるというふうに、働き方はいろいろあって良いという考えだ。
松尾 国土交通省と地方公共団体で働き方改革にしろ生産性向上にしろ考え方に開きがある。地方には市町村の仕事しか受けない会社もあるので、全体が連携して取り組まないと解決しない。
福島 業界の広報については、協会で工業高校を対象に出前授業をしているほか、「土木の日」に都市高速の現場に子どもたちを招き、親子でディレクターになって建設現場の仕事と社会的役割を紹介するビデオを作成し、ユーチューブにアップしたりしている。九州建設技術フォーラムなど、ことあるごとに、建設産業の魅力を紹介するイメージ戦略を進めている。
松尾 3K(危険・きつい・汚い)と呼ばれた時代が親の世代の頭に残っている。それを払しょくするためにイメージ戦略は必要だ。大事なことは、われわれの活躍をしっかりと見せて建設業の魅力を発信することだ。その上で各年代に応じた接点を持ち続けたい。
--建設業とコンサル業の連携のアイデアは
福島 分野の垣根を越えて勉強会を開き、交流することが重要ではないか。オープンイノベーションというか、従来型の産業の枠組みを超える形で法規制を守りつつコラボすることで、新しいアイデアの実現と建設産業全体の成長につながる。
松尾 設計、工事の品質向上にはお互いの技術者の技術力の研鑚(けんさん)が不可欠なので、現場での勉強会を開きたい。人口が減る中で次の世代が働きやすい産業にするためにITは欠かせない。コンサルのIT化とわれわれの施工のあり方を連携しないといけない。
残り50%掲載日: 2020年10月23日 | presented by 建設通信新聞