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げんば最前線/自動化施工のショーケースお披露目/“次世代のダムづくり”進む/東北整備局の成瀬ダム堤体打設 施工=鹿島・前田・竹中土木JV
// 本文の表示 画像がセットされていない場合は、画像分の余白ができてしまうのでtxtクラスは使わない。 ログインしていない場合も画像は表示しない。?>土木の未来がここに--。東北地方整備局が秋田県東成瀬村で建設中の成瀬ダム堤体打設工事(第1期)(施工=鹿島・前田建設工業・竹中土木JV、奈須野恭伸所長)の現場で省人化・自動化施工の取り組みが本格化している。「土木現場の工場化」を合言葉に鹿島が開発した次世代建設生産システム『A4CSEL』(クワッドアクセル)が全面的に展開。深刻な人手不足への対応と生産性向上に向けた現場改革など、建設産業界全体が抱える課題に最新鋭のICT技術で挑戦する“次世代のダムづくり”が進む。来春には23台の自動化建設機械が躍動する様子が見られる予定だ。
◆国内最大のCSGダム
洪水調節と渇水期の水量調節、かんがい用水補給、水道用水供給、水力発電を目的とする成瀬ダムには、現地の材料を有効活用する日本独自のCSG(Cemented Sand and Gravel)工法を採用している。堤高114.5mと堤体積485万m3は、ともに台形CSGダムとして国内最大の規模を誇る。1983年に秋田県が実施計画調査を開始し、91年には国に事業が移管され、97年から事業に着手した。2018年9月に本体着工し、19年7月から原石山採取工事(施工=大成建設・佐藤工業・岩田地崎建設JV)でCSG材の製造が始まり、同年10月に初打設式を迎えた。
9月末時点の打設量は全体の4.4%に当たる21万2500m3(うちCSG17万4600m3)。現在施工中の低標高部は重ダンプトラックでCSGを運搬しているが、今後はCSG製造設備から堤体右岸上部までベルトコンベヤーで自動搬送する計画だ。事業全体の進捗率は49.6%(事業費ベース)。
◆A4CSELが描く未来
鹿島が「土木の未来を描く“世界最大級の建設自動化ショーケース”」に位置付ける成瀬ダム堤体打設工事では、同社が09年から開発を進めてきたA4CSELを満を持して投入。汎用機械を自動運転仕様に改造し、その制御にはAI(人工知能)で分析した熟練オペレーターの操作データを取り入れ、同等の精度で安定した品質を確保して作業できるA4CSELは、多数の機械を連携して最も生産性が高い施工計画に基づいて稼働させる施工マネジメント技術を活用し、機械の配置や作業順序を最適化する。成瀬ダムの現場では実績がある振動ローラーとブルドーザー、重ダンプに加えて、ローラー転圧後に使用する清掃車を新たに自動化した。
これらとともに“現場の工場化”に貢献するのが保護コンクリート打設時の『置き型枠自動スライドドリフタ』だ。クレーン作業なしで置き型枠を設置できる自動置き型枠装置で最大96%、成瀬ダムで実施する目地・止水板の合理化施工では同81%の省人化を可能とする。
成瀬ダムで5カ所目となるダムのスペシャリスト・奈須野所長は「(高齢の)技能者やオペレーターの疲労は事故につながる恐れがある。無人化で事故リスクを軽減し、安全性が飛躍的に向上している」と自動化施工の利点を強調。さらに作業ごとに燃料使用量の“見える化”と最適化を実施することで、環境負荷の低減も図っている。
◆ITパイロットが管制
これらをコントロールする司令塔が10月14日に開設した『KAJIMA DX LABO 土木の未来館』の2階にある管制室だ。IT企業のオフィスを連想させる室内にはA4CSELの開発などを担当した新職種の“ITパイロット”が常駐。常時4人体制で作業データを作成・送信しているほか、24時間体制で自動化機械を“管制”する。従来比で工期の32%短縮と83%の人員削減で作業が可能になる。担当者は「より少数のITパイロットで、より多くの自動化機械の施工を管制することがわれわれの目標」と語る。
同社ではダムに続いてトンネルでの自動化施工の実証も進めており、今後は橋や防潮堤など、あらゆる土木事業の自動化を推進し、従来の労働集約型からスマートな情報集約型の産業構造への転換を図っていく。さらにJAXA(宇宙航空研究開発機構)などと連携して、月面の無人拠点建設を見据えて超長距離間の通信や、遠隔での作業効率向上の研究開発にも取り組んでいる。
◆施工現場を観光資源に
東北整備局成瀬ダム工事事務所では、現場見学を始めとする広報活動にも力を注いでいる。19年度は前年度に比べて約2.6倍に当たる106回の見学会を開き、参加者数は2.4倍の2344人だった。また、原石山側にあるダム展望台に設置したカウンターは延べ2万8707人の来場者数を記録するなど、工事の進展に伴い、見学者も右肩上がりで増えている。
新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、4月に見学会を一時休止(現在は再開済み)したものの、事務所のウェブサイトにはバーチャル見学会のページを開設。この間、展望台には説明看板や音声ガイドを新設するなど、わかりやすい広報に努め、今後は夜間の現場見学開催なども検討しているという。
地元・東成瀬村の佐々木哲男村長は「次代を担う子どもたちの“教科書”であり、観光の新たな目玉にしたい」と、土木の未来館とともに、地域の貴重な観光資源として施工中の現場の積極的な活用に期待を寄せている。
残り50%掲載日: 2020年10月29日 | presented by 建設通信新聞