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海岸保全技術特集2020(2)
// 本文の表示 画像がセットされていない場合は、画像分の余白ができてしまうのでtxtクラスは使わない。 ログインしていない場合も画像は表示しない。?>【インタビュー「海岸行政はいま」/国土交通省水管理・国土保全局海岸室長 田中敬也氏/コロナ禍、浜辺に多くの人集まる/水害の頻発・激甚化に備える/予測重視した順応的砂浜管理】
--海水浴場が開設されない今夏でしたが
ことしはコロナ禍で例年なら海水浴場が開設されるはずの多くの海岸で海水浴場が開設されませんでした。個人的な話となりますが、私は趣味でトライアスロンをやっていますが全国の大会が軒並み中止となりました。一方、海水浴場が開設されていない浜辺に多くの人が集まっていることがニュースで流れ、改めて人々の海岸への愛着の強さを感じる、例年とは違う夏でした。
--最近の災害の状況は
ここ数年毎年のように大きな台風が日本を襲っています。昨年は千葉県での大規模な停電をもたらした台風15号、千曲川の堤防決壊をもたらした台風19号、一昨年は関西国際空港が孤立した台風21号など近年の強大な台風の記憶も新しいなか、ことしは台風9号、10号により九州地方を中心に被害が発生し、特に台風10号では気象庁から大雨、暴風、高波、高潮に対して最大級の警戒が必要であるとの呼びかけが行われ、これまでにないようなレベルでの避難・警戒行動がとられました。
日本では戦後、伊勢湾台風、カスリーン台風など千人規模の犠牲者をだした風水害が頻発しました。その後防災施設の整備もあり、いまから振り返ると比較的災害の小さな時代が続きましたが、気候変動の影響が顕在化しつつある現在は再び災害の時代に入ったといえそうです。
--気候変動への対応は
国交省では7月に「気候変動を踏まえた海岸保全のあり方」の提言を取りまとめました。この提言では、これからは気候変動による影響を考慮した海岸保全対策に転換していくことが打ち出されています。すなわち、現在整備途上の海岸はもとより、既に堤防等海岸保全施設が計画どおり完成している海岸でも、今後気候変動に対応して計画を見直し、それに伴い新たな施設整備等が必要となることが想定されます。ゴールに向けての歩みを続けていたところ、気候変動によってそのゴールが遠ざかっていくようなもので、われわれはいままで以上に安全度を向上させるための歩みを速めていく必要があります。また、台風のみならず南海トラフ地震をはじめ切迫する巨大地震・津波にも備える必要があり、事前防災対策を加速化させていかなければなりません。
--環境・景観、利活用について
冒頭述べたコロナ禍での海辺のにぎわいからわかるように、人間は根源的に海辺、砂浜への愛着を有しており、海岸は環境・景観、利活用の面からも重要です。日本の砂浜は4800㎞あり、沿岸域の地域の生活の場であり、地域の貴重な自然環境、観光資源でもあります。また、砂浜があることで波が弱められ、高潮や津波から背後の人命や財産を災害から守るという重要な役割もあります。
一方、この砂浜にも気候変動の影響は容赦なく襲いかかり、気候変動による海面上昇に伴い今後さらに砂浜の浸食が進行するおそれがあります。国交省では、砂浜保全についてこれまでの後追い的な対策だけでなく、「予測を重視した順応的砂浜管理」を行うことで、失われつつあるわが国の国民的財産である美しい砂浜を取り戻し、次世代に継承していきたいと考えています。また環境・利用面では、観光・レジャーの拠点となる砂浜づくりを進め、地域振興を図るため、背後地の整備と一体となった砂浜保全を行う「はまツーリズム」の推進と情報発信を行ってまいります。
【気候変動対策転換/海岸保全のあり方提言/国交、農水省の有識者会議】
国土交通省と農林水産省は7月、両省が共同で設置した「気候変動を踏まえた海岸保全のあり方検討委員会」(座長・佐藤愼司高知工科大システム工学群教授)による提言を公表した。提言では、海岸保全での気候変動適応を具体的に進めるため、過去の高潮・波浪の実績のみに基づく対応から、気候変動を考慮した対応への転換の必要性を強調。加えて、平均海面水位が2100年に1m程度上昇するという悲観的予測も考慮し、これに適応できる海岸保全技術の開発を推進し、社会全体で取り組む体制の構築を求めた。
侵食対策では、30-50年先を見据えた「予測を重視した順応的砂浜管理」を実施し、防護だけでなく環境・利用上の砂浜の機能も評価する。総合土砂管理計画の作成や河川管理者、ダム管理者と協力した対策の実施など流域との連携強化も盛り込んだ。
短期的な対策だけでなく、今後5-10年の間に着手・実施すべき事項として、海象や海岸地形のモニタリング、その将来予測、影響評価、適応といった海岸保全における気候変動の予測・影響評価・適応サイクルを確立し、継続的・定期的に対応を見直す仕組み・体制の構築について言及している。
また、地域のリスクの将来変化については、防護だけでなく環境や利用の観点も含め、定量的で分かりやすく地域に情報提供するとともに、地域住民やまちづくり関係者とも連携して取り組む体制を築くべきだとした。
【30年で340億円投入/九十九里浜侵食対策計画】
千葉県は、九十九里浜侵食対策計画を策定した。計画期間は2020-49年の30年間となる。太平洋側の9市町にまたがる長さ約60㎞の九十九里浜を対象に、総事業費約340億円を投入して養浜やヘッドランド整備などを実施する。防護の面から背後地に越波が生じないために必要な目標砂浜幅40mの達成を目指す。
計画によると、旭市から一宮町までの九十九里浜のほぼ中央にある片貝漁港(九十九里町)から北側の北九十九里では、年間2万立方メートルの養浜と2基のヘッドランド縦堤延伸を実施する。
片貝漁港から南側の南九十九里については、年間7万立方メートルの養浜のほか、7基の離岸堤整備、改良を含む9基のヘッドランド整備を計画している。
養浜は、九十九里浜系内の砂を活用し、積極的にサンドバイパス・サンドリサイクルする。
事業は10年ずつの3期に分けて進める。20-29年の第1期は汀線(ていせん)後退が著しく侵食が顕著であり、さらに後背地に集落がある個所や海岸利用が多い個所から対策に取り組む。
【世界初GLドローンで海岸3次元化/関東地方整備局】
水底・地上を問わず、面的計測が可能なグリーンレーザー(GL)スキャナー装置を搭載したドローンによる世界初の大規模な海岸地形の3次元データ化プロジェクトが本格始動した。
国土交通省関東地方整備局は9月末、神奈川県二宮町の西湘海岸をフィールドに初めて海岸での計測を行った。組み立てから計測、簡易的なプレビュー解析までを約40分で完了するという手軽さもあり、今後職員自ら行う管理業務への適用など数多くの施策に生かせる可能性を秘めている。
【人々の暮らしと海の豊かさを守る/生物共生護岸/東亜建設工業】
当社は、多様な生物を育み、CO2吸収源としても期待される干潟や藻場、マングローブ林等の大規模な造成に長年携わってきました。また、老朽化した護岸の改修時や護岸の新設時等には、生物の生息場を取り入れた「生物共生護岸」を提供してきました。この護岸では、多様な生物の生息場としての利用が確認されています。沿岸域への気候変動の影響が一層懸念されるなか、当社は人々の暮らしと海の豊かさを守り、SDGsの達成に寄与できるよう努めてまいります。
【優れた消波性能で海岸保全/S-VHS工法/五洋建設】
斜面スリット型透過式ケーソン「S-VHS工法」は静穏海域の創出、高波浪時における背後地への越波による浸水および砂浜等の海岸侵食の防止を目的とした海域制御構造物です。従来型「VHS工法」を改良し、堤体上部を斜面構造としたもので、消波性能を保ちながら耐波浪安定性を向上させました。斜面構造により波力が分散・低減されるため、従来型と比較して堤体や鋼管杭を小さくでき、経済性・施工性にも優れる工法です。
残り50%掲載日: 2020年10月30日 | presented by 建設通信新聞