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  • 建設論評・航空産業の衰退と都市のイメージ

     世界に蔓延した新型コロナウイルス感染症は、人類の社会活動を大きく変えた。最大の変化は人の移動の制限であろう。文明の進歩は、移動と交流、結合によってなされてきたわけだが、現代のグローバル社会において、移動の頂点にあるのが航空機であった。世界各地を短時間で結ぶためのいわば競争が、一層グローバル社会の活動を促進させてきた。

     

     その航空産業のコロナ禍によるダメージは、深刻の度を増すばかりである。いわゆるフラッグキャリアの倒産は、社会への影響ばかりでなく、国や都市のイメージを破壊する危険性をはらんでいる。タイの「タイ国際航空」、コロンビアの「アビアンカ航空」などの経営破綻(はたん)は、それほどのインパクトを持つものだ。

     

     もちろん、それ以前にも航空会社の経営破綻はあったが、代表的なのが1991年のパンアメリカン航空(パンナム)の倒産であろう。ジャンボ・ジェット「747」を運航し、米国のフラッグキャリアとしてだけでなく、世界の航空会社の代表的な存在であった。そんなパンナムがあっさり倒れたことの衝撃はいまでも記憶に残っている。

     

     何よりも、その社屋、パンナムビルが象徴的だった。ニューヨーク・パークアベニューの突き当たり、グランド・セントラル駅舎に隣接し米国最大の超高層ビルとして君臨していた。竣工は1963年、ビルの頂部、南北面には「PANAM」というロゴ、東西面には地球儀が輝くビルである。しかしながら、70年代後半からの経営悪化のあおりを受け、81年にはメトロポリタンライフ生命保険会社にビルを売却、現在ではメットライフビルと呼ばれている。

     

     このビルにこだわる理由は設計者にある。エミリー・ロス&サンズに加え、バウハウスの校長でもあったヴァルター・グロピウス、ピエトロ・ベルスキーによる共同設計であることも忘れることはできないからである。近代建築とデザイン教育の先駆けとなったバウハウスが33年にナチスによって閉鎖されたことにより、多くの建築家やデザイナーたちが米国に亡命した。その結果、バウハウスによる近代建築の実践が、シカゴやニューヨークなどの米国の都市に開花したのである。その1つがまさにパンナムビルなのである。建設当時はその閉鎖的な造形が非難の的になっていたが、パークアベニューの真ん中にそそり立つ姿がやがてマンハッタンのシンボルとして認められ、現在ではニューヨークを代表する建築の1つとなっているが、そうした象徴的な意味でも、現在の「MetLife」ではなく、あの「PANAM」というロゴが重要だったのではないかと思っている。

     

     少々話が飛躍してしまった感もあるが、都市を代表するビルの存在と、1つの産業の代表的存在との関係である。そこにはビルに備わっているロゴすらも関係してくる。

     

     いまやコロナ禍による社会の停滞は、単に1つの産業や1企業の問題にとどまらず、都市の、社会の象徴を失う意味すらあるということである。(児)

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    掲載日: 2021年1月6日 | presented by 建設通信新聞

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