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  • 建設論評・ダム・堤防の限界

     毎年のように全国各地が大水害に見舞われている。100年に一度のはずの大洪水が毎年起きているのだ。

     

     氾濫を引き起こす豪雨は、地球規模の気候変動、すなわち温暖化に起因すると指摘されている。世界の平均気温は、産業革命以降、約1度上昇しているという。

     

     雨が降るのは大気の中の水蒸気のせいで、その水蒸気の量は気温が1度上がると7%増えるそうだ。気温や海面水温が上昇して水蒸気の量が増えるから、大雨の頻度や降雨量が増加するのである。

     

     この地球規模の気候変動の影響を世界で最も受けている国は日本である、とドイツのNGOが指摘している。

     

     国土交通省によると、1976-85年と2010-19年の各10年間の1時間に50mm以上を記録する大雨の発生回数が1.4倍に増えたという。

     

     ちなみに、この数年間のわが国が被った大水害を列挙すると、17年7月九州北部豪雨、18年7月西日本豪雨、19年10月台風19号、20年7月熊本豪雨、と文字どおり毎年起きており、その被害は地方ほど多くなっている。19年10月の台風19号では、都心部の人的被害が抑えられたのに、宮城、福島、長野で甚大な被害が出た。

     

     長野市では危険性を十分に認識した上で、洪水時の避難計画を立案策定して浸水地区を想定したハザードマップを住民たちに配布して水害に備えていた。にもかかわらず千曲川の堤防が決壊した地区では、死者が出たというのに避難した住民は半数以下だったそうだ。千曲川沿岸の住民たちが、市が想定した浸水はあり得ないシナリオと解釈して「堤防は絶対に決壊しない」と過信していたためである。だが、決壊は起こり得る。ダムや堤防による整備では限界があるということなのだ。

     

     熊本県下の球磨川では、ダムに依らない治水対策を模索していた。だが、暗礁に乗り上げて実現に至らなかった。そうしているうちに死者を出す大水害が起きてしまった。ダムがあったらその水害は起きなかっただろうという意見がある一方、ダムがあっても水害を完全に防ぐことは不可能だったとの反論もある。

     

     ここにきて国は、ダムや堤防だけに依らない流域治水政策に舵(かじ)を切った。ハードの整備に多額の費用をかけ難くなっている事情がある。00年ごろまでの治水予算は1.3兆円だったが、いまでは1兆円程度。往時より低水準を余儀なくされているのだ。

     

     これは、ハード面にソフト面の対応を合わせた水害対策に街づくりを盛り込んだ、まさに歴史的な政策転換である。既存の氾濫や浸水情報をもとに、リスクの高い地域は住居の移転、土地利用の規制、開発行為の制限、避難体制の確立、住民の合意形成の促進など、その枠組みは従来の河川行政を超えてとてつもなく広がる。

     

     ここに大きな壁が立ちはだかる。例えば、ダムの所管は経済産業省、農林水産省、国交省。洪水情報の所管は国交省、気象庁。というような省庁間の縦割り行政が、その促進を阻害する恐れがある。

     

     流域治水政策の成功の鍵(かぎ)は、省庁間の障壁の払底にかかっている。 (小)

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    掲載日: 2021年3月2日 | presented by 建設通信新聞

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