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  • 東日本大震災から10年 明日の建設産業を考える/気候変動 備えに理解広がる

    【多様な契約は地域を育てる】

     

     2011年3月11日の東日本大震災は、岩手、宮城、福島を中心に津波・地震、原発事故などさまざま被害をもたらした。震災から10年。被災地の復旧と復興、これからの地域再生を考える時、あの震災は日本を大きく変える起点になったのではないかとの思いが消えない。さまざまな視点で東日本大震災と建設産業を考える。

     

     3.11の甚大な被害は、業務委託や入札といった通常の公共調達の考え方だけでなく、災害対応を行う地域の基礎自治体を中心にしたこれまでの災害対応の意識も打ち砕いた。広域災害のため、基礎自治体と広域自治体、国との役割分担や指示命令系統が縦割り行政の弊害でうまく機能しなかった。

     

     震災当時の国土交通省東北地方整備局長が、棺桶まで調達するなど被災地域のあらゆる要請に応えなければならない役割を「闇屋の親父」と例えたのは、縦割りの弊害を非常時対応として打破していかなければ被災地要請に応えられなかったからだ。

     

     結果的に、震災翌年の2012年から14年まで3年連続して災害対策基本法は改正を重ね続け、広域災害の国の調整役明確化や大規模災害時の道路啓開を進めるために放置車両を撤去できる緊急対応が認められるようになった。

     

     さらに東日本大震災という巨大地震発生は、東海地方から四国、九州にかけた「南海トラフ巨大地震」や「首都直下地震」への対応意識を国、自治体、住民に強く持たせた。これが災害に備えるためには、ハードとソフト両面で事前の備えをすることが結果的に人的・物的、経済的被害を抑えることになるという「事前防災」「政策の防災主流化」の考えとなり、「国土強靱化基本法」の成立につながった。

     

     その後も気候変動による自然災害多発が続き、予算を確保し、さまざまな事業を行う「防災・減災、国土強靱化事業」が継続することになる。これが、東日本大震災を起点とした国を挙げて取り組むことになった防災・減災、強靱化の動きと言える。

     

     東日本大震災を契機にした広域災害への備え、震災以降相次ぐ気候変動に伴う災害多発は、政府、自治体、住民らの防災・減災への取り組みの重要性と理解の認識促進だけでなく、民主党政権(当時)看板政策だった「出先機関廃止」の流れを一気に止めた。

     

     震災後も、民主党政権は国交省地方整備局など3つの国出先機関の事務・権限、予算を、広域ブロック単位組織に移譲する「出先機関事務移譲法案」提出にこだわった。しかし、出先機関の権限移譲に手を挙げた関西広域連合の知事(当時)の発言が、拙速導入に反対をする知事や震災の被災基礎自治体首長だけでなく民主党内からの猛反発を招く。

     

     関西広域連合のある知事は震災後の会合でも東北整備局を念頭に、「わたしたち(知事同士)は携帯ですぐに話ができるから、整備局以上のことができる」と断言。発言に対し「被災地と携帯もつながらない中でどう対応するかが問題なのに、そんなことも知らずに発言するとは」と批判が相次ぎ、整備局などの出先機関廃止は頓挫した。

     

     もう1つ、建設産業にとって震災が起点となった大きなキーワードは「多様な入札方式の拡大」だ。これは「2つのキセイ=垣根の消滅」と言い換えることができる。2つとは、公共調達をめぐる(1)既成・慣習(2)制度や法律などの規制--の「キセイ」。

     

     現実の問題として、▽非常事態時で時間のかかる手続きができない▽業務委託や工事発注の職員もいない▽同時並行でプロジェクトを進めなければならない--などを少しでも解消するために生まれた知恵が、「事業促進PPP」や「復興CM」「ECI(設計段階から施工者が関与する方式)」「設計・施工一括(デザインビルド・DB)」「詳細設計付工事発注」などさまざまな契約方式の導入拡大につながった。

     

     また多様な入札方式ではさらに落札者選定方法でも総合評価に加え、「技術提案・交渉方式」や「段階的選抜方式」が選択肢となったほか、支払い方式でも「総価契約」「総価契約単価合意」のほか、「コストプラスフィー契約・オープンブック」や「単価・数量精算契約」などが国交省ガイドラインに明記された。

     

     昭和から平成にかけ公共調達の基本原則だった「設計・施工分離」は一足先に民間建築でDBとして風穴が開いたが、土木では業界が求めても実現できなかった厚い岩盤だった。

     

     いくつかの被災地で導入された復興CM、事業促進PPPだけでなく、多様な契約方式や選定方法さらには支払い方式の組み合わせによる多様な調達手法拡大は、技術革新の進展も合わせ建設産業の健全な発展のかぎを握っている。

     

    ◆東日本大震災以降の主な出来事

     

    ◇2011年

     ・東日本大震災

     ・PFI法改正、コンセッション導入

     ・大手3団体統合、日建連誕生

     

    ◇2012年

     ・災害対策基本法改正(2013、14年)

     ・笹子トンネル天井版落下

     ・社会保険未加入対策開始

     ・政権交代(自民・公明が与党返り咲き)

     

    ◇2013年

     ・国土強靱化基本法

     ・道路法改正(5年に一度の点検義務化)

     

    ◇2014年

     ・担い手3法改正

     ・多様な入札導入へ国交省ガイドライン

     ・国土強靱化基本計画を閣議決定

     

    ◇2015年

     ・日建連、全建が国の指定公共機関に

     ・関東・東北豪雨

     

    ◇2016年

     ・熊本地震

     ・台風10号

     

    ◇2017年

     ・九州北部豪雨

     

    ◇2018年

     ・7月豪雨

     ・台風21号

     ・北海道胆振東部地震

     ・防災・減災、国土強靱化3か年緊急対策(2018年度-20年度)

     

    ◇2019年

     ・8月前線に伴う大雨

     ・台風15号

     ・台風19号

     

    ◇2020年

     ・台風10号

     ・7月豪雨

     ・全中建が国の指定公共機関に

     

    ◇2021年

     ・防災・減災、強靱化5か年加速化対策(2021年度-25年度)

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    掲載日: 2021年3月11日 | presented by 建設通信新聞

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