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技術裏表・複層斜交重ね板壁構法
// 本文の表示 画像がセットされていない場合は、画像分の余白ができてしまうのでtxtクラスは使わない。 ログインしていない場合も画像は表示しない。?>【素材感損なわず木造耐震補強/伝統建築物の壁を置き換え】
松野浩一東洋大理工学部建築学科教授が中心となって開発した木造建築物の耐震化工法「複層斜交重ね板壁構法」への引き合いが増えている。竣工案件・設計中案件を含めて計6件で採用しており、低コストで大規模伝統建築物の耐震化を実現できる構法として今後も注目を浴びそうだ。◆適用範囲広く施工も簡単
同構法は、柱と梁の軸組に壁枠をビスで留め、側面の凹凸で接合する本実矧(ほんさねは)ぎで接合した小幅板を、斜め・横に3層に重ねて壁枠にビスで留める。逆方向の斜め小幅板が左右それぞれの地震力に対する耐力を高め、中間層の横板で面材を一体化するとともに、靱性を高める。壁の耐力を示す壁倍率は約10倍にまで到達し、通常のラスカットパネルによる補強の2倍の耐力を実現できる。
鉄製のダンパーなどを使用せず、「壁の置き換えで耐震補強できる」(松野教授)ため、木造の伝統建築物の素材感を損なわない点が大きな特長だ。壁を複層斜交重ね板壁に置き換え、表面を周囲の壁と同じに塗れば、壁面ごとの大きな時代的差異を感じなくなる。
さらに大きな特長は、対象建造物の規模や素材、求められる耐力などに柔軟に対応できる点にある。「軸組と壁枠のビスの打ち方で、壁倍率を3-10倍にまでチューニングできる」(同)ほか、「新築や耐震補強、真壁づくりや大壁づくりにも対応できる」という。集成材の軸組構造や軽量鉄骨の補強にも適用できる。使用する材料も、「杉やひのきなど無垢(むく)材なら何でも良いし、木材の等級も関係ない」(同)。耐力計算も、通常の許容応力度計算や限界耐力計算で対応できる。
壁を置き換えるため、壁の厚さ(=柱の太さ)によって適用可否が決まる。これまでは、壁枠の幅が55-120mmを適用範囲としていたものの、「現在、42mmの薄型でも採用できるように開発を進めている」とさらに適用幅を増やす考え。
施工法も、より簡易にできるよう工場製作と現場建て込みを組み合わせたセミプレハブ構法と現場建て込み構法の両方を可能とした。セミプレハブ構法の場合、壁枠に斜めと横の壁板を組み込んだ面材を工場で製作すれば、現場では面材の建て込みと壁枠の固定、表面の斜め壁板の設置だけで完了する。適用範囲の柔軟性が高く、施工性も高い構法のため、「構法を理解して、性能を担保できるのであれば積極的に使ってほしい」と、施工できる建設会社の参加にも期待を寄せる。
1909年竣工の奈良ホテル(木造2階建て延べ約4600㎡)の耐震補強では、同構法を採用。設計したジェイアール西日本コンサルタンツ建築設計部構造設計室の戸田充次長は、「当初、金物の制震ダンパーを複数個所に設置するよう設計していたものの、もともとの建物の耐力が小さく、ダンパー設置数が多くなった」(同)という悩みを抱えていた。そんな時に、同構法のことを聞き比較検討した結果、「壁1枚を置き換えるだけの割に耐力が大きく、しかもコストが低減できることが分かった」(同)ため採用することにした。耐力が現行基準を大幅に下回る大規模木造建築物ほど、より大きなコストメリットが出るという。戸田氏は今後も「選択肢の1つにならない理由がない」と語る。
耐震強度の低さから建て替えざるを得ない歴史的木造建築物は少なくない。同構法は、建築文化や伝統技術の継承に新たな道を開く、重要な選択肢となりそうだ。
残り50%掲載日: 2018年6月8日 | presented by 建設通信新聞