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  • 「NICCA INNOVATION CENTER」で2度目のJIA日本建築大賞 小堀哲夫氏

    【道具・意識・活動まで設計】

     

     福井市にある日華化学の研究拠点施設「NICCA INNOVATION CENTER」で、小堀哲夫氏(小堀哲夫建築設計事務所代表)が日本建築家協会の2018年度JIA日本建築大賞を受賞した。16年度に続く2度目の受賞は史上初めて。建築家として「目の前のクライアントに真摯(しんし)に向き合うこと」を徹底し、建築にとどまらず、プロダクトやモチベーション、活動までを施主とともにデザインすることで、閉じられていた企業の“研究”イメージを内外に表出させた。 小堀氏は、建築が社会に認知されるためには、「場で人々が変わり、場で地域が変わることを建築家自身が体現していく必要がある」との信念を持つ。公開審査の場には同社の社員が応援に駆け付け、地元紙に受賞が大きく報じられたことで、「建築が再び社会に開き始めた」ことを実感する。

     

    ◆民間企業も公共性を

     

     このプロジェクトでは、「自前主義の脱却、新たな変革、地域への貢献」を試みた。地方の活性化には、「その地域の力強い民間企業が公共性を持つべきだ」との持論のもと、「人が集まる場づくりと、何かが起きる仕掛けづくり」を実践。これまで万年壁で囲まれていた社屋と、“タコつぼ”化していた社内の研究室を外に向けて開くことで、「モノや情報の売買、交換が始まるようなムーブメントをつくりたかった」と、物質的・精神的にオープンな場となる“市場=バザール”を提案した。

     

     設計にあたっては、「プロジェクトのニーズを踏まえつつ、建築から生まれる新しい可能性を最大限に引き出すこと」を常に心掛けている。空間のあり方もミース・ファン・デル・ローエが提唱したユニバーサル・スペースの概念をもう一度問い直す。「日本的な均質的な空間ではなく、本来は多様な活動を支える環境であり、光や風、熱、人の活動までを等価で捉え、同時にデザインしなければ心地良い空間は成立しない」と断じる。

     

     建物は、卵の黄身のように圧倒的に心地良く安心な広場“コモン”を中心に同心円状に諸室を配置。1階から4階までを通り抜ける“大通り”に沿ったガラス張りの実験室から「人があふれ出る様子が全体でわかる」構成とした。地域に開放する1階のパブリックスペースには、供用から1年間で約7000人が訪れた。同時に研究に集中できるクローズドな“裏通り”も設けている。

     

     環境面では、「光、風、水のハーヴェスト」と「光を冷やすこと」に挑戦した。厳しい日照条件のもと、自然光を最大限に採り入れるため、天井は直射日光を遮り、間接光に転換するスリットスラブとした。その一方、発光体として熱を持つ壁やスラブにはTABS空調の冷媒配管を埋め込み、豊穣な地下水をまちづくりに利用した一乗谷朝倉氏遺跡に着想を得て、「地球をラジエーター」とする環境装置をつくりあげた。

     

    ◆被せ方式で濃密なWS

     

     「建築家が建築だけをデザインする時代は終わった。プロダクト、モチベーション、人の教育までデザインできるのが建築家」と職能論を展開する。「未来に起きることを描きながら建築(ハード)と活動(ソフト)を相互に作用させていく作業は圧倒的に大変だった」と、ワークショップを始め、多岐にわたる領域のすべてに顔を出し、協働する人たちとセッションしながらアンサンブルを完成させた。

     

     「変化をリアルに体現する」ワークショップの前段では、先進的で“プレイフル”なワークショップの第一人者・上田信行同志社女子大特任教授らとチームを組んで、社員とミュージックビデオを1日で制作。真面目だが内気な社員を変貌させ、会社全体に変革の意識を植え付けた。

     

     本番のワークショップでもプロの劇団員を交えて各部署の業務内容や働き方などを寸劇で紹介。提示した模型に対し、より良い対案を求める“被せ方式”で、時には100本のアイデアを受け止め、当初案からは全く予想できない形が生まれた。ただ、徹底した濃密なワークショップも「クライアントと密接にコミュニケーションを図るための有効な手段の1つ」であり、「建築家がより深く入り込み、長く付き合っていくことを表明し、建物への愛着、維持管理の意識につなげたい」と見通す。

     

    ◆幸せな空間をデザイン

     

     自然へのこだわり、公共性の考え方、ものづくりのクオリティーが評価され、「自分の建築に共感してくれる人が増えた」と手応えも。海外からの依頼も増え、さまざまな国の人々と交流できることが何よりも楽しいと語る。4月に供用する梅光学院大学新校舎(山口県下関市)は、廊下や教室など境目がないオープンなワンフロアと、外と中を自在に出入りできる流動的な動線を備え、オープンなカフェ・ライブラリー・オフィスで学生と教職員が空間と時間を共有する「少子化時代の新たな学校」となることが期待される。

     

     今後は、公共建築への参加機会をうかがいつつ、「ビルディングタイプと補助金制度に縛られている」病院や福祉施設の設計に意欲を示す。「建築家として高齢者が幸せになれる空間のあり方を示したい」と、時代に応じた新たな建築と人のあり方をこの先もデザインしていく考えだ。

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    掲載日: 2019年3月27日 | presented by 建設通信新聞

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