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建設人のための経済学・5/貨幣は信用・負債の証、公共事業が経済を拡大させる
// 本文の表示 画像がセットされていない場合は、画像分の余白ができてしまうのでtxtクラスは使わない。 ログインしていない場合も画像は表示しない。?>現代貨幣理論(モダン・マネタリー・セオリー=MMT)の話をしたい。そもそも貨幣とは何か。物々交換からスタートした経済が、それだけでは不便だから商品の代替物として貨幣が発明された。最初は価値のある金や銀を使っていたが、計量が大変だから貨幣になったというのが、近代経済学の父と呼ばれるアダム・スミス以降のストーリーだ。だが本当にそうなのか。MMTはその考え方を否定している。
人類の長い歴史をみると、物々交換が経済を動かしていた時代はない。貨幣は商品の代替物として誕生したのではなく、もともと「信用の証」あるいは「負債の証」として誕生したというのがMMTの考え方だ。
例を挙げると分かりやすい。例えばAがトウモロコシを育て、Bが大根を育てていたとする。収穫時期にAとBはお互いの作物を10本ずつ交換する約束をした。夏にトウモロコシが実り、AはBにトウモロコシ10本を渡すが、大根は冬にならないと収穫できない。そこでBはAへ冬に大根を10本渡すという「信用の証」として、大根の引き換え書を渡す。その引き換え書はBにとっては「負債の証」となる。さらに秋になってCがAにナスを売り込んできた。Aにはナスの代わりに渡すトウモロコシがなく、手元にあるのはBからもらった大根の引き換え書だけ。そこでAはCに大根の引き換え書を渡し、ナス10本をもらう。冬になりCはその大根の引き換え書をBに渡し、大根を10本もらう。
この一連の交換は、引き換え書が価値を持つという信用に基づいて成立する。信用の証、あるいは負債の証として貨幣を造ったという考え方を「信用貨幣論」という。実際、古代シュメール文明時代に引き換え書の役割を果たした粘土板も発見されている。アダム・スミスがいう商品の代替品となる「商品貨幣論」よりも、「信用貨幣論」の方が理にかなっている。MMTはこの信用貨幣論をベースに理論を組み立てている。
ではMMTはどういう理論なのか。大ざっぱに言うと「通貨発行権を持つ国は、財政赤字が拡大し大量の国債を抱えても、借金返済のために通貨を発行すれば財政破綻しない」(ただしインフレという制約はある)というものだ。借金があるのに、さらに借金してお金を使っても破綻しないという考え方は、一般の家計ではあり得ない。政府が国債を発行すれば、政府債務は増える。だがその分、信用が増大し経済が大きくなる。負債の創出、もっと言えば信用創造こそが経済を拡大させ、デフレの脱却につながる。
これは貨幣が信用の証、負債の証だからこそできることで、商品の代替品と思っていたらその発想には行き着かない。銀行は手元資金量の枠内で貸し出しているのではなく、借り手の返済能力を判断して貸し出している。貨幣はそうした信用の証なのだ。建設国債を発行し公共事業を実施すれば、市場にお金が流れ、労働者や建設会社にお金が回る。いわば公共事業の分だけ経済が大きくなる。何年たっても、この国がデフレから脱却できないのは、貨幣に対し間違った認識を持っている経済学者たちが経済対策を主導しているからだ。ここ数十年の経済政策の失敗がそれを証明している。(国土政策研究所所長)
残り50%掲載日: 2019年7月11日 | presented by 日刊建設工業新聞