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  • 建設論評・ゴルゴ13と土木屋

     『ゴルゴ13』に、土木学会の会長が登場した。

     

     ゴルゴ13は、閣僚級の政治家にも愛読者がいることで知られる劇画(コミック)で、最近、外務省が危機管理の教材に採用したことで話題になった。

     

     『ビッグコミック』誌に掲載されたエピソードは数年後、シリーズの単行本として発刊される。そのSPコミックスコンパクトの最新刊、152集に描かれたフィクションである。

     

     学会長が講演で、スクリーンに映すバルセロナのサグラダ・ファミリアの威容を「造ったのは、アントニオ・ガウディだ」と語り、次に黒四ダムの映像を示して「誰が造ったのか名指しできる人はいない」と指摘する。

     

     日本でも、日銀や東京駅を造った辰野金吾、東京都庁を造った丹下健三の名は多くの人々に知られるが、土木では、明石海峡大橋や青函トンネルと人名が結び付けられていない。行動に責任を持つためにも土木技術者は名を知られるべきだと訴える。

     

     そして「物理学の世界でアインシュタインや湯川秀樹に憧れて若者が物理学者を目指すように、土木を目指す動機付けとなるヒーローが必要」と説く。

     

     傍聴していたフリージャーナリストが、学会長にインタビューを申し込み、四谷の学会本部を訪れる。彼は、台湾の利水工事の八田與一、琵琶湖疏水の田辺朔郎、小樽築港の廣井勇を挙げて、広く知られていると反論する。

     

     これを受けて学会長は「土木を学んだ者には基礎的な知識だが、道行く人に尋ねても知っている人なんかいない」と一蹴し、「ガウディの名前は、建築を学んだことがない人でも知っていますよ。エッフェル塔は、人名だというのに」と嘆く。

     

     フィクションに現職の土木学会長の個人的信条を質すことはヤボではあるが、わが意を得る土木屋は多いはずだ。

     

     そこで、一介の土木屋として、そのあたりの因縁を考えてみる。

     

     造った人の詮索に意義があるのだろうか。パリのエッフェル塔に匹敵する東京タワーでは、内藤多仲の名が知られる。NHKがプロジェクトXで紹介したからだ。人名の周知にメディアの影響は大きい。では、メディアを活用すればよいかというと、そんな安易な話ではない。

     

     エッフェル塔と呼ぶようには、日本人は東京タワーを内藤塔とか多仲塔と呼ぶことはない。東京スカイツリーに至っては、造った人名は分からない。人探しの動きもない。外国では艦船や街路に人名をつけるが、日本人はそもそも顕彰の意味で人名を冠する気持ちがない。

     

     造った人に存在意義を向ける気がないなら、どこに向けたら良いのだろうか。造った苦労に意義があるのだろうか。だが、誇示したり吹聴するほど、日本人は冷めてしまうではないか。つまり、俺が造ったとか、いかに苦労して造ったかと吹聴することは顧みられないのだ。

     

     土木で大事なことは「役立つ」ように造って「役立っている」ことではないのか。

     

     晴れがましく知られずとも喜びに浸る幸福感を、日本の昔の人は「菊作り菊観るときは陰の人」と詠んだ。

     

     土木屋の本分も、そこにあるのだ。役立って喜ばれる限り、公共事業が悪役にされることもないのである。 (康)

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    掲載日: 2017年12月21日 | presented by 建設通信新聞

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