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  • 建設人のための経済学・7/大石久和/建設国債発行は将来世代のため

     2011年3月、私たちの国は東日本大震災という未曽有の大災害に見舞われた。その2カ月後、多くの行方不明者の捜索が続いているというのに主流派経済学者が集まり「現世代で受けた災害による被害は現世代の責任で復旧すべきだ」と復興増税を提言した。驚くべきことはこの提言に110人もの経済学者が署名したことだ。学者が顔をそろえて、こんな提案に署名する必要があるのか。人数がいないとパワーが出ないのか。この感覚がすでに学者としては浮世離れしているとしか思えない。

     

     復興増税が導入された時、日本経済はデフレだったが、政府と国会は経済学者の主張を受け入れ、デフレを促進する復興増税を成立させた。いまもわれわれの所得税に上乗せして徴収されている。この「現世代で起こったことは現世代で責任を持つ」という考え方は、建設国債の理念を全く理解していない。財政法第4条は建設国債により公共事業を実施できると定めている。将来世代がインフラを利用するのを前提に建設国債の発行が許されている。

     

     阪神淡路大震災の時は増税はしなかった。なぜ、日本経済がデフレで苦しんでいる時に国民に負担のかかる増税をするのか。もちろん被災地の復興は欠かせない。建設国債で対応すれば良かったのだ。経済に与えるダメージを考えながら、復興の原資を考えるのが経済学者ではないのか。

     

     新自由主義経済学者は、国債が増えれば増えるほど、民間の資金を吸い上げられるので金利が上昇する、だから国債の発行は抑えるべきだという。わが国の国債の発行額はどんどん膨らんでいる。だが、長期金利は上がるどころか、下がっている。経済学者はこの状況をどう説明するのか。

     

     中野剛志著の『目からウロコが落ちる 奇跡の経済教室』では、こうした経済学者や財務省の主張の間違いを、分かりやすく解説している。例えば財務省の財政制度等審議会が2014年5月に出した「財政健全化に向けた考え方」では、「家計が保有している潤沢な金融資産と企業部門の資金余剰という国内の資金環境を背景に、多額の新規国債と債務償還に伴う借換債を低金利で発行できている」と、述べている。

     

     国民の金融資産は現在1800兆円あると言われているが、国の債務がそれに近づいていて、もうすぐ限界がきている。金利上昇のリスクがあると、指摘したいのだろう。だが、中野氏の解説によると、国債を購入する銀行はわれわれが預けた預金という手元資金で国債を買っているのではなく、銀行が日本銀行に設けている当座預金で買っている。その銀行の日銀当座預金は元はと言えば日銀が供給したもので、結局は紙切れの中でお金が動いているだけの話と分析している。国民の金融資産の大きさの制約は受けていないと言っている。

     

     そもそもわれわれがキャッシュや株で金融資産を持っていたとしても、それを国債に換えたからといって金融資産がなくなるわけではない。国債が金融資産であることに間違いがない。それよりも、国債を発行して政府支出を増やせば、その支出額と同額の民間預金が増える。つまり、国債発行で民間資金を吸い上げるどころか、民間資金を増やしている。だから金利も上昇していないのだ。

     

     銀行は集めた預金で政府や企業への貸し出しをしているのであれば、国債購入分だけ民間資金が圧迫される。しかし、銀行は貸出先の返済能力によって貸出額を決めており、手元にある預金額は関係ない。つまり信用創造で貸し出している。だから、金利は上昇しない。経済学者は実体経済をもっと観察する必要がある。

     

     〈国土政策研究所所長〉

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    掲載日: 2019年7月25日 | presented by 日刊建設工業新聞

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