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  • 建設産業界 直面する大転換期/正体は「人口減+高齢化」

    【建設産業界 直面する大転換期/正体は「人口減+高齢化」】

     

     建設産業界はいま、産業構造の大転換期に直面している。この大転換期を避けることが出来る個社や業種別業界は存在しない。日本そのものが、大転換期に直面しているからだ。日本が直面する大転換期の正体とは、「人口減少と高齢化」に尽きる。かつて人口・労働力の増加は、技術を生かしたものづくり産業の発展と輸出大国の礎を築く一方、消費・購買を中心にした国内需要拡大がGDP(国内総生産)増という形で日本の経済成長をけん引してきた。建設産業界も経済成長や生活の安全・安心に寄与する社会インフラ整備や民間設備投資に応え続けた。その成長モデルに代わる新たな“航路”を切り開くことがいま求められている。 建設産業界は別の側面でも、高度成長期以降の日本を支えてきた。都市部では失業者などを対象にした雇用の調整役として、また地方では農業従事者が農閑期に土木工事の作業員として働く現金収入の手立てとしても、機能した。

     

     しかし、日本が「人口・労働力の減少」に転じたことで、これまでのさまざまな成長モデルは転換を余儀なくされることになる。労働力が過去のように一定数維持できれば、正社員と非正規社員を労働内容に応じて使い分けることはできた。建設業も同様に、労働集約型で雇用のリスクをつけ回す格好の重層下請構造が拡大していったわけだ。

     

     いま、建設産業界が直面する「担い手確保・育成」と「生産性向上」はこうしたこれまでの建設業の成長・生産モデルの転換を余儀なくされた結果と言える。

     

     ただ安倍政権が打ち出した「第4次産業革命」や、成長戦略に基づき国土交通省が標榜する「i―Construction」、こうした動きに連動して大手・準大手ゼネコンや大手コンサル、大手設備会社などによる設備投資や技術開発、生産供給力維持を目的にした協力会組織強化・支援といった個社の動きも活発化している。

     

     個社が2020年東京五輪という短期目標・指標にとらわれず、中長期の戦略、成長への戦術などについて一斉に取り組み始めているのは、先行き不透明のなかで守勢に回ろうとする後ろ向きの発想からではない。

     

     国策となった「働き方改革」に取り組むに当たって、日本が直面する「労働力減少+高齢化」は無視できない。その結果として、時間外労働時間の規制義務化と週休2日拡大は、これまで建設産業界の特徴だった「労働集約型ものづくり」から脱・労働集約型システムへの転換を必然的に促す。IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ、AI(人工知能)、ロボットを使った技術革新も日進月歩のスピードで進んでいる。

     

     これまで、労働集約型産業かつ受注産業の宿命として、市場規模を自らコントロール出来ず、その時々の市場規模によって厳しい価格競争から抜け出せなかった建設産業界。

     

     しかし、働き方改革で制約を受けるなか、さまざまな生産性向上への取り組みや業界外と連携した技術革新とオープンイノベーションは、「請け負け」とも言われた価格だけが受注の有無を左右する請負工事であっても、技術革新による提案と対応が価格に代わる新たな他社との差別化のカギを握る可能性を示す。まさに、建設産業界が直面している「労働力減少+高齢化」は言い換えれば、これまでの労働集約型生産から脱却し、省人化や省力化、さまざまな技術革新による生産性向上を含めた新たな提案競争時代の幕を否応なく切ったと言える。

     

     押し寄せる働き方の変革と、高まる生産性向上への意識に伴う技術革新の大洋に乗りだした建設産業界の今の状況は、中世ヨーロッパで夢と実利を求め、大西洋へ続々と乗り出していった“大航海時代”という過去の歴史と重なり合うかもしれない。

     

     しかし大きな課題も浮上する。技術革新、オープンイノベーションの大波に乗り出せる企業は、人員、設備投資額に勝る全国企業にほぼ限られている。つまり、建設企業の99%以上を占める中小元請けと中小・零細の専門工事業は、単独で産業構造転換を促す技術革新には乗り出せない。今後の建設産業構造を議論するうえで、この99%をどう考えていくかが重要なポイントとなる。

     

     さらに、それぞれが目的を持ち新たなフロンティア(新市場)、ブルーオーシャン(競争がなく高収益な市場)を目指して未知の大海原に乗り出した建設産業界の明日を展望するためには、乗り越えなければならない、いくつかの課題もある。その課題を7つにまとめ、検証する。

     

    ◇建設市場・建築着工は回復せず/厳しさ増す中小企業市場

     

     建設産業界が直面する大転換期を乗り越える7つの課題のなかで、政策的に大きな課題となるのが「建設市場」と「中小・零細企業」の関係だ。日本の産業構造と同様、建設産業も99.9%を中小・零細企業が占め、全国各地それぞれの地域で、地域防災・災害復旧だけでなく地元企業として雇用や消費を含め地域貢献している。しかし元請け・下請け問わず地域の中小建設業を取り巻く環境と今後に不安感が漂っている。

     

     その根底にあるのは、建設市場の先行きへの不透明感と、建設産業が直面する「働き方改革」と「生産性向上」を代表に、ICT工事の拡大や社会保険加入の促進、建設キャリアアップシステムの構築など、さまざまな取り組みが同時並行で一気に進んでいることへの強い戸惑いだ。

     

     地方建設業の中小向け工事減少を実感する経営者は元請け、下請けを問わず多い。実は建設市場の半分以上を占める建築工事市場は、日本国内の建築投資を一気に萎ませた2008年9月のリーマン・ショック当時の水準まで回復していない。

     

     一方、今年度の土木工事規模もさえない。政府が昨年7月に閣議決定した、官公需法に基づく17年度の国などの契約方針の基本方針は、中小企業契約目標率こそ16年度と同じ55.1%としたものの、目標額そのものは減少した。

     

     特に国土交通省の17年度官公需予算総額のうち工事は前年度から2247億円減少。当然、中小企業向け契約目標額も1351億円減少し前年度比11.9%減の9958億円にとどまった。

     

     こうした地方企業が疲弊しかねない状況を踏まえてかどうかは別にして、政府の18年度成長戦略の1つとして地域経済・インフラについては、ICT活用などによる生産性向上と機能向上を目的に、いくつかの中小企業支援策がすでに明示された。また、国交省の17年度補正予算案でも中小企業向け支援を盛り込むなど、行政もICTなど技術革新に向かう中小企業支援の姿勢を強く打ち出し始めている。

     

    ◇働き方と生産性・週休2日が国策に/相対的に高まる「生産性向上」

     

     2017年3月、政府は「働き方改革実行計画」を働き方改革実現会議で決定した。これまで長年、時間外労働規制の適用除外だった「建設事業」にも適用されることが決定した瞬間だった。5カ月後の8月末には、政府の建設業の働き方改革に関する関係省庁連絡会議で、『建設工事における適正な工期設定等のためのガイドライン』がまとまった。政府主導による、公共・民間の建設工事を対象にしたガイドラインによって、元請け・下請けや企業規模問わず全ての建設企業に、長時間労働是正や週休2日などの働き方改革と、生産性向上の取り組みを求める形となった。

     

     生産性向上についてはそれぞれの立場で目的も違ってくる。元請けが業務効率や省人化・省力化を目的にしたコスト削減を目的にしているのに対し、下請けの専門工事業にとっての生産性向上とは、1日の出来高アップによる収入増に尽きる。

     

     単純に考えれば作業効率が落ちる多能工や、作業日数減少につながる週休2日などに反対する専門工事業や職人がいるのは、収入目減りにつながりかねないからだ。

     

     実は、政府主導の働き方改革は元請けや下請けの専門工事業以外にも思わぬ影響を与え始めている。これまで建設事業と並んで長時間労働規制の対象外だった「自動車の運転業務」だ。

     

     首都圏の大規模建築物の構造を構成するハイグレードなS造、特殊鋼構造物、土木で使われるシールドのセグメントなど資材運搬は大型トラックに委ねられている。しかしいま、急速に建設資材運搬トラック運転手が、転職などでいなくなっていると言われている。大手ファブリケーター(鉄骨の加工・製作・据え付け)のトップは、「必要なグレードの鉄骨を各地工場から集める連携体制を敷いてきたが、運転手確保問題でこれまで通り調達できるかどうか不安もある」と率直に胸の内を語る。

     

    ◆乗り越えろ「7つの課題」

     

    (1)不透明な建設市場を確実に手にする

     

     ・地域支える中小企業保護策に自治体の覚悟

     

    (2)技術革新と機械化で労働力減少に耐える

     

     ・省人化と省力化、人の経験値だけに頼らない

     

    (3)生産性向上、直面する中小元請けと下請け

     

     ・設備投資、単独では難しいからネットワーク

     

    (4)問答無用の時間外労働時間適正化

     

     ・厳密運用で生産システムの供給力減

     

    (5)産業界挙げての週休2日、現場閉所

     

     ・かぎは専門工事業と職人の働き方意識

     

    (6)技能労働者の確保・育成に必要な処遇

     

     ・減少する労働日数・時間、賃金どう確保

     

    (7)職人評価切り札の建設キャリアアップシステム

     

     ・地方元請業界の一部には根強い警戒感

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    掲載日: 2018年1月1日 | presented by 建設通信新聞

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