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建設論評・モバイル蓄電池社会への期待
// 本文の表示 画像がセットされていない場合は、画像分の余白ができてしまうのでtxtクラスは使わない。 ログインしていない場合も画像は表示しない。?>2019年のノーベル化学賞で、リチウムイオン電池を開発した吉野彰・旭化成名誉フェローがアメリカの2氏とともに受賞を果たした。日本のノーベル賞受賞者は27人目、化学賞は8人目の快挙である。
リチウムイオン電池は、それまでの充電池、例えばニッカド電池などに比べて小型で電圧も高い。さらには充電効率が良く、使用温度範囲が広いなど、高性能であることが特徴だが、太陽光などの再生可能エネルギーへの足掛かりを作った意味でも、今後の新たな領域の開拓に対する期待は大きい。その裾野は今回のノーベル賞を契機として、さらにモバイル蓄電池への社会全体の関心が高まっていくだろう。
例えば、モバイル型蓄電による電力供給経路の分散化である。一般に、電気は大規模な発電設備から1本の電線によって配電されているが、蓄電池などにより分散化が進めば、現在起こっている配電システムの課題が大きく改善されることになる。さまざまなモバイル製品だけでなく災害時対策など、ノマド型モバイル蓄電社会の構築が待たれている。とりわけ、電気自動車(EV)利用への期待は極めて大きいと言われている。
現在、一般家庭の1日分の電力消費量はおよそ10kW時程度と言われている。一方、EVに搭載されている蓄電池の容量は、例えば日産自動車のリーフでは最大62kW時であり、自動車からの配電はかなり期待できるレベルにある。蓄電池の容量・性能の向上については今後さらに研究開発が進むはずだが、新たな蓄電池の研究も行われている。現在のリチウムイオン電池に比べて蓄電容量が10倍もあるとされる「リチウム・空気電池」、従来の電池の欠点を取り除いた「全固体電池」などであるが、その展望は極めて明るいと言われている。
電気エネルギーは、社会生活のあらゆる場面に有効であることは間違いない。再生可能エネルギーも電気エネルギーに変換して使用することが便利で効率的であるし、さらに蓄電容量が増えることでEVが「走る大容量蓄電池」として、国土全域にくまなく張り巡らされた配電インフラとして活用される可能性もある。とりわけ、自然災害が多発する日本においては、こうした分散型のエネルギー供給システムの構築は極めて有効な方法であると考えられている。モバイルの代表格である自動車がエネルギー供給の核となることができれば、再生可能エネルギーをも取り込んだ包括的なエネルギー環境が整備され、モバイル社会の新たな骨格をつくることができるからである。
スマートシティーの基本は適切なエネルギーシステムが機能することが前提であることは自明であるにもかかわらず、いままでその理念が軽視され続けてきたように思う。その流れを変えるきっかけの1つが、この度のノーベル化学賞によるリチウムイオン電池への評価ではないか。進まないコンパクトシティーへの流れにも新たな弾みがつくことが期待される。EVを核とするモバイル蓄電システムの進化は、単なる自動車という概念を超え、応用範囲の広がりが期待されている。 (児)
残り50%掲載日: 2019年10月25日 | presented by 建設通信新聞