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建設論評・建設業の賃金は適正か
// 本文の表示 画像がセットされていない場合は、画像分の余白ができてしまうのでtxtクラスは使わない。 ログインしていない場合も画像は表示しない。?>建設業の賃金が急上昇している。かつては、例えば1999年、建設業男性生産労働者の賃金は全産業男性労働者と比較するとその75.9%、製造業男性労働者と比較すると87.9%であったが、2018年には対全産業で82.8%、対製造業で97.1%へと格差が縮小している(出典:厚生労働省『賃金構造基本統計調査』18年)。
これは大変結構なことではある。いままでなかなか追いつかなかった他産業の賃金水準に追いついてきたのは建設業にとっては画期的な出来事で、よくやったと言いたいところである。では、建設業の労働生産性はそれほど向上したのだろうか。その実態をみると、建設業は全産業に対し66.8%、製造業に比べて54.7%に過ぎない(出典:内閣府『国民経済計算』、総務省『労働力調査』、厚生労働省『毎月勤労調査』17年)。
建設業の賃金が上がった理由を考えると、生産性の向上が原因ではなかったということであろう。では、ほかの理由を考えると、建設業の賃金が上がった理由は、需要が急増したため、にわかに人手不足に陥ったことが挙げられる。ほかにこれといった理由がないから、仕事をこなさんがために無理をして賃金を上げていると推測できる。
さて、そうすると、建設業の賃金は上げ過ぎであると言うべきだろうか。ある人の意見では、賃金は労働市場というマーケットで決まるものだからその結果が出たにすぎないと言う。したがって、現状がその反映であるからこれで当然であると。しかし、反対意見もある。生産性が上がっていないのにこれを上回る賃金を出すことは企業の自殺行為である。節度ある賃上げこそ健全なのであると言うのである。
考えてみると、建設業には利益、付加価値の増大により賃金を上げることよりも、効率よく熱心にたくさん働いたことに報いなければいけないという価値観がありそうだ。それが「規模の利益」という思想の根拠のようであり、また、大きなことは良いことだという古くからの思想を疑わないで長くやってきた元を成しているのではないか。
ただ、考えなければいけないとすれば、建設産業の重層構造ではあるまいか。例えば、発注者から仕事を直に受注する元請けであり、その下に入ることの多いのが中小企業であることである。そんなことは当たり前ではないかというのはこの業界の常識だ。しかし、下請けは元請けよりも会社規模は大きくなれないのだろうか。あるいは、元請けよりも利益が出ないのが当然なのだろうか。そうした常識が通用していることは歴史の長いこの業界に特有の思い込みであるかもしれない。
もし、売り上げか利益かと問われれば、利益である。しかしそう言い切る前に、売り上げがなければ利益はないとつぶやくのは売り上げをこそたくさん欲しいという気持ちの表れなのではないか。こうしたことから考えると、いまの急な労賃の上昇の根源にはいろいろな思いが渦巻いているのである。これをどうやって乗り切るのか、まさに経営者の価値観にかかっていると思う。 (三)
残り50%掲載日: 2019年12月6日 | presented by 建設通信新聞