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  • 建設論評・エネルギー政策の見直し(上)

     国際エネルギー機関(IEA)は、「エネルギーの世界には、深刻な乖離(かいり)がいくつも存在している」とする(『世界エネルギー見通し』2019年11月)。

     

     IEAが指摘する乖離は、(1)あらゆる人々にエネルギーを提供する目標に対して、10億近い人々が電力へのアクセスがない現状にあること(2)世界全体で温室効果ガス排出量を急速に削減しなければならないのに、エネルギー関連の排出量が2018年に過去最高を記録したこと(3)再生可能エネルギーを軸とした迅速なエネルギー転換が期待される一方、現在のエネルギーシステムは化石燃料への依存度が非常に高いという現実(4)石油市場では供給が安定している一方で、地政学的緊張と不確定要素に対する不安材料が持続していること--の4つである。

     

     そのとおりである。例えば、IEAは、アフリカでは現在6億人強が電力へのアクセスを欠いているが、40年までにその都市人口は5億人以上増加するとする。アフリカの太陽光資源は豊富でガス田も発見されているが、急増するエネルギー需要に応えることは中国やインドよりも困難で国家運営の不安的要素が問題をさらに複雑なものとしている。

     

     あるいは、世界中で再生可能エネルギーの開発・供給が急増するが、急成長するアジアでは電力と熱を供給するために、石炭、天然ガス、再生可能エネルギーが三つ巴の競争をしているとする。

     

     また、パリ協定(気温の上昇を2度未満、できれば1.5度に抑える)を達成するには40年までの発電増加量のすべてを再生可能エネルギーによって賄う必要があるとされ、風力発電と太陽光発電がエネルギー転換を牽引(けんいん)する。だが、これに対応するには電力システムの再構築が不可欠である。例えば、電力の貯蔵、電気自動車と電力網の連携、需給情報の集約と分析、システムの統合的制御などのための技術と仕組みが必要となるが、これはエネルギー産業の抜本的な再編成を伴うことになる。

     

     さらには、きな臭さを増す国際情勢はエネルギー資源の安定供給を脅かしている。資源確保のための行動がさらに国際的な摩擦を激化する構図を解消しなければならならないのだが、現在の国家主導デモクラシーは、国際的な協調や対話と親和的ではない。

     

     もちろん日本政府は、エネルギー基本計画を策定し問題に対処しようとしている。しかしながら、現在の計画(第5次、18年)は、各エネルギー源の長所短所を比較し、3E+S(資源自給、環境適合、負担抑制、安全)のベストミックスを提唱するに留(とど)まっている。ゼロエミッション電源比率、最終エネルギー消費量、CO2排出量、電力コスト、エネルギー自給率の30年の目標とその達成のための方途が記述されているが、社会経済の構造に踏み込んだ計画となっていない。

     

     早晩見直しが必要になるが、その時は少なくとも前述した乖離を埋めるための展望を示し、そのために必要な負担を明らかにして社会的な合意を得なければならない。だがいま進められているのは、相変わらず3E+Sのベストミックスのもと、経済成長を損なわずにいかに脱炭素化するかのプログラムを描く作業だけで、「野心的」とは言い難い。

     

     では、日本のエネルギー政策について、どのように見直さなければならないのだろうか。(羅)

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    掲載日: 2020年1月28日 | presented by 建設通信新聞

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