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建設論評・統計の知 -国勢調査百年-
// 本文の表示 画像がセットされていない場合は、画像分の余白ができてしまうのでtxtクラスは使わない。 ログインしていない場合も画像は表示しない。?>昨年の新設住宅着工戸数は90万5000戸、前年比4.0%減であった。また、建設工事の元請受注高は57兆5660億円、前年比0.2%増、下請受注高は28兆638億円、同6.4%増であった。
これだけの統計データからどのようなことが分かるか。住宅着工がマイナスなのに工事受注高はプラスだから、土木工事が大きく増えたのではないか、あるいは、下請受注高が元請けよりも大幅に増えているのは、土木工事の増加によるだけでなく、元請下請関係に何か変化が起きつつあるのではないか、などいくつかの推測が可能である。しかもこれらのデータは、経年的に得ることができるから、社会経済の変化と関係付けて分析することもできる。
このように、統計を用いることによって事象の実態を正確に把握し、分析することができる。特に重要なのは、主観的な判断や思弁的な思い込みによる誤謬を回避できることで、これは政府にも企業にも共通する。定量的な業務管理、予測に基づく計画立案、情報の共有と公平な議論、複雑な関係にあるものの制御などは、統計データを欠いては成り立たないのである。
一方で、統計調査を正確に、継続的に実施するには多大の労力を必要とする。政府の基幹統計だけで53種類ある。報われることの少ない地味な作業であるが、統治を支えるための根幹業務なのである。
その中で、諸統計の基盤となっているのは、国勢調査(人口の構造調査)と国民経済計算(経済の構造調査)である。特に国勢調査は、時点を定めて一斉にすべての人について調査することによって、社会経済の基盤である人口の構造を正確に把握するだけでなく、各種標本調査の抽出フレームを提供する役割も果たしている。
ことしは、その国勢調査が始まって百年目である。実は、国勢調査は1896(明治29)年に建議されたが、日清戦争のため財源を確保できないなど難航し、第1回の調査は1920(大正9)年になってようやく実施されたのである。その建議には「統計は国家の現状を査察し、事物の変遷を推定する羅針なり。故に、統計にして明確にならざる時は、公私百般の事業は茫乎として拠る所なく、往々誤謬に陥ることを免れざらんとす、そうして統計の正確なることを欲せば、全国人民の現状を調査するより急かつ急なるはなし」と述べられている。
統計の知は、政策の根拠(エビデンス)を提供する。憶測や激情に基づく政策を阻止しなければならないのは当然であるが、逆に政策を押し通すために統計が悪用されることもある。特に、緊急時には悪用がはびこりやすいから注意が必要である。
ことしの10月1日は、5年ごとに実施されてきた国勢調査の21回目の実施日である。COVID-19が終息し、安全に実施できることを願っている。実は過去一度だけ実施しなかった時がある。1945年の調査がそれで、代わりに57年に臨時調査が行われた。国勢調査がいかに重要であるかを示すエピソードである。
統計の知は、政策や計画に、誠実に生かさなければならない。そのことが、先人の百年間の努力に感謝し、報いる唯一の道であると考える。(羅)
残り50%掲載日: 2020年5月11日 | presented by 建設通信新聞