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  • 建設論評・スーパーシティ構想は社会実験である

     情報通信技術を都市活動のさまざまな分野に導入し、都市生活の姿を変える構想の具体化が進みつつある。対象分野は、移動、物流、医療・介護、教育、エネルギー・水、環境・ゴミ、防犯・防災・安全など広範に渡っていて、先端技術を提供する企業と行政とが連携して分野横断的にサービスを提供する構想である。

     

     このスーパーシティ構想を具体化するためには、政府が個別分野の規制を撤廃・緩和するだけでなく、事業対象区域における住民生活や都市活動のデータを網羅的に大量に取集・分析し、事業者が連携して利用する必要がある。また、規制の撤廃・緩和のために政令や条例の制定・改正が必要になる場合もある。先月成立した「国家戦略特区法の一部を改正する法律(スーパーシティ法)」は、それらの必要に応える規定を定めた法律である。

     

     いよいよスーパーシティ構想が動き出すかもしれない。この構想は新成長戦略の核となるSociety5・0((超スマート社会)に向けた政策の一環で、都市を実験の場とする社会を巻き込んだ新技術の実証計画として推進されている。AI(人工知能)、ビッグデータ、自動運転、フィンテック、ドローン、ロボットなどの技術を社会全般に導入する時、どのような可能性が開け、どのような問題を抱えるかなどについては未知なところが多い。構想の真の目的は、社会実験によってそれを確かめ、本格的な導入につなげることであろう。

     

     技術を検証するためには実験が必要で、社会実験に異を唱えるつもりはない。だが、社会を巻き込むのだから作法を守ってほしい。大きく2つある。

     

     第1に、実験データの公開である。事業者はビッグデータを入手する特権を得るが、同時に実験によって得たデータを包み隠さず公開する義務も負う。データ利用に当たってEU一般データ保護規則を遵守するのは当然だが、公開された実験データに基づいて、実験のプロセスや結果を評価しなければならないのである。科学実験であれば評価に当たるのは科学者であるが、社会実験の評価に当たっては、一般市民の参加が不可欠である。実験計画論に従えば、評価者は市民からランダムに抽出すること(くじで選ぶ)が望ましい。

     

     第2に、実験を漸進的に進めることである。特に、AIの大幅な活用は未知のリスクを伴うから、事前警戒原則(具体的な被害が発生しておらず、また、科学的な不確実性がある段階で、予防的な措置を取って活動を行う者が損害を生じないことの証明責任を負うとする考え方)を適用すべきである。

     

     最も大きな懸念は、このような政策の進め方である。市民生活を設計のもとに置き制御するというアプローチは、技術を過信し、社会の倫理、歴史、文化や、個人の尊厳、信条、かけがえのなさなどを軽視することになりかねない。技術は人間のための道具であって、逆ではない。

     

     COVID-19は、市民生活の基盤の見直しを迫った。スーパーシティ構想の成否は、その要請に応えることができるかどうかで決まる。経済成長の手段として推進されるのは政治の要請であろうが(新成長戦略については大きな疑問があるがここでは触れない)、それに従属してはならないのである。(羅)

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    掲載日: 2020年6月1日 | presented by 建設通信新聞

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