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建設論評・遠隔授業の効用
// 本文の表示 画像がセットされていない場合は、画像分の余白ができてしまうのでtxtクラスは使わない。 ログインしていない場合も画像は表示しない。?>いま教育界では、長期化する休学の対応策としてITシステムを用いた遠隔授業の存在感が増している。
オンライン、テレワーク、リモートとも称され、同時双方向型(テレビ会議で採用)、オンデマンド型(受講者が好きな時に利用)、教材配信型(同時性と非同時性)などの方法がある。
大学教育で採用される遠隔授業を総花的に検証してみたい。
まず、優れた点。第1に、対面授業が不可能な場合、教育崩壊が防げる。第2は、オンラインが録画されることでいままで不明だった授業の内容が可視化され、その質が明らかになる。教育指導要領がないことをいいことに、授業に手抜きをしていた教員には鉄槌(てっつい)となる。第3は、受講生の理解に合わせた速度で授業が進められることだ。従来は教員の判断で授業が進められていた。第4に、内気な受講生が人目を気にせずに発言できること。第5に、他大学の受講で単位取得が可能になる、いわゆる大学間の相互乗入れの制度化が容易になるだろう。さらに、オンラインの採用で不登校生が授業に対応可能になったと教育専門家でも予期しなかった効果が実証されている。
欠陥にも目を向けておきたい。第1に、遠隔授業に必要な環境整備には地域格差が存在していることだ。高速通信の基幹インフラである光回線が届いていない地域では受講生は恩恵を受けられない。第2に、教職員の専門知識やスキルに大学格差があると環境整備に影響して、遠隔授業の本格稼働を開始した途端、一度に多くの受講生がアクセスしてサーバーがダウンするようなシステム障害が起きて受講できなくなる。第3に、受講生の負担能力に格差があることだ。通信制限容量が小さいと受講できなくなる。モバイル端末の入手が困難な受講生でも利用できるように、通信負荷の低いシステムを採用するなどの配慮が必要だ。第4に、サイバー攻撃や不正侵入を受けて、授業が混乱するリスクを抱える。第5に、受講生は端末画面を凝視し続けることで疲労が蓄積し、根気が続かなくなるという。その精神的なケアを図り、教材や講義に工夫が必要になる。最後に「オンラインでも知識の伝達は何とかなるが、人間の成長のために教育は何を提供できるか」との教育者の自答を挙げておきたい。
そうした欠陥があっても、対面授業が不可能な非常時にはこの遠隔授業を採用せざるを得ないのだが、気にかかることがある。それは、通信制や放送大学を受講する際にも感じることだが、講師に対する親近感が乏しく受講生間の連帯感がないことだ。これは遠隔授業にも共通する孤独感と空虚感であり、謦咳(けいがい)と陶冶(とうち)を実感できないからである。
謦咳とは尊敬する人の識見や人格に接することを言う。陶冶とは人材の薫陶養成を言う。そこに存在するのは、教員と受講生との全人的なつながりの重みである。
教育の理念は、謦咳と陶冶が発揮されて達成される。だから、理想は対面授業にあることを認識したい。
その上で、遠隔授業の優れた点を取り入れて、守旧的な対面授業の質を高めることに努めたいものである。 (康)
残り50%掲載日: 2020年7月7日 | presented by 建設通信新聞