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連載・建設業はいまNo.13/衝撃13
// 本文の表示 画像がセットされていない場合は、画像分の余白ができてしまうのでtxtクラスは使わない。 ログインしていない場合も画像は表示しない。?>【生産性向上なくして改革なし/過去の教訓「絶対に忘れるな」】
いま建設産業界で「時代」が変わる予兆を敏感に感じ取る企業経営者は多い。バブル期からバブル崩壊、その後長きにわたって直面した建設市場縮小の中で向き合ってきた経験と、建設産業界挙げて取り組み始めた働き方改革と生産性向上の取り組みが重なって見えるからだ。確かに過去と現在では、日本が置かれている状況や行政と業界の意識など前提条件も大きく違う。にもかかわらず、中小元請けや専門工事業界に働き方改革への警戒感が強いのはなぜか。
躯体3職種の1つ型枠大工工事業の全国組織、日本型枠工事業協会の三野輪賢二会長はさまざまな場面で、「働き方改革は生産性向上が前提条件。このことを決して忘れてはならない」と警鐘を鳴らし続けている。
型枠大工が仕事の主戦場にするRC造構造物で、元請けが生産性向上の念頭に置くのは、PC(プレストレスト・コンクリート)化や複合化、先組みなど工場生産による現場作業の削減や、脱型不要のラス型枠採用といった現場作業の単純化による省人化だ。一方、型枠大工にとっての生産性向上とは、職人の1日当たりの仕事量(手掛けた㎡数)増加に尽きる。しかし、政府の方針によって早急な対応が求められている、建設産業界の長時間労働是正や現場の週休2日などは、専門工事業側の生産性向上の取り組みに関係なく導入に向けた体制が整い始めている。
働き方改革へ大きくかじが切られようとしていることに警鐘を鳴らす三野輪会長の真意はどこにあるのか。引き合いに出すのは、「鉄筋工事業最大手の佐藤工務店の破たん」だ。
佐藤工務店は、女性職人育成、高年収、物流業務支援製造情報システム構築によるコストダウン成功企業として、建設省(現国土交通省)が一般競争入札本格導入を前提に策定した1995年の『建設産業政策大綱』の参考資料にも取り上げられるなど注目されていた企業だった。
いまのトレンドになぞらえれば、働き方改革に先鞭をつける形で先頭に立って処遇改善に取り組んだ企業ということになる。その佐藤工務店が96年10月に破たんしたのは、「処遇改善に伴う経費増を吸収するために生産性を向上させるという経営意識がなかった」ことが理由だと、三野輪会長は分析する。
だからこそ今後の専門工事業は、元請けの考えとは異なる視点で生産性向上を実現することが、企業存続の前提であることを三野輪会長は強調し続ける。
RC造からS造への構造転換に伴う仕事量減少に悩む型枠大工、鉄筋工の躯体2職種の業界に対し、かつて大きな逆風にさらされた左官業界から自らの経験を踏まえた指摘とエールも送られている。
「生産性向上として例えば型枠工事でPCa(プレキャスト)化が進めば、つなぎ目など一部は在来工法が残る。そうなれば、大半の作業が湿式工法から乾式工法へ移行したことで、左官職人の仕事がなくなったことと同じことが起きかねない」(日本左官業組合連合会幹部)。
出来栄えを含めた品質が職人の技量に大きく左右される湿式工法は、高度成長期以降、RC造集合住宅の大量需要に応えられず、技量を問わない乾式工法に一気に取って代わられた。結果的に左官職人の技量が問われる仕事はほんのわずかしか残らなかった。
左官業界には、生産性向上・技術開発に連動して受けた逆風を教訓として、いまの専門工事業界で生かしてほしいという思いがある。しかし、型枠工事を始め、いまの専門工事業界は社会保険加入、元請けの働き方改革と生産性向上への取り組みに対応するだけで精一杯だ。佐藤工務店が残したもう1つの教訓である「担い手確保・育成を含む働き方改革には、専門工事業にとっての生産性向上が不可欠」という経営者にとって当たり前のことさえ、忘れてしまいかねない状況に直面している。
残り50%掲載日: 2018年1月30日 | presented by 建設通信新聞