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連載・建設業はいまNo.14/衝撃14
// 本文の表示 画像がセットされていない場合は、画像分の余白ができてしまうのでtxtクラスは使わない。 ログインしていない場合も画像は表示しない。?>【業務の責任・士気 どう持続/持続的成長のかぎは各社が探る】
政府の働き方改革が大きく動き出す少し前の2016年10月。西松建設は、内外勤問わずすべての社員の残業時間を月60時間、繁忙期でも最大80時間に抑える総労働時間抑制に向けた取り組みを始めた。同年4月に業務の生産性向上を目的にした技術戦略会議を設置、業務効率化を含む生産性向上と労働時間抑制をセットにした動きだった。
取り組み始めて1年以上が経過、当初は社員からも難しいと言われていた現場の残業時間抑制も、「目標どおり進んでいる。要は意識の問題」と近藤晴貞社長は胸を張った。一方で、いまの働き方改革の行方について個社の社長として、また全国建設業協会(全建)会長として2つの不安を抱えているという。
全建会長として出席した17年秋の全建ブロック会議・地域懇談会で、ある地場企業経営者の発言に近藤社長は衝撃を受けた。
発言の要旨は、「これまで新入社員の募集を続けてきたが、誰も来なかった。しかし完全週休2日であることをPRしたら複数人採用できた。だが、今後いつまで会社が続くか分からない」というもの。
労働人口が減少し、人材確保競争が激化する中で人材を採用するためには、賃金や休暇、労働時間などさまざまな処遇・待遇改善が必要だ。ただ賃金や休暇など処遇改善に踏み切るためには、踏み切った後も業務効率化やさまざまな生産性向上などで労働生産性を高め、コストアップを吸収し経営を持続的に安定させることが大前提となる。
全建会長として衝撃を受けたのは、この経営の基本原則に沿った対応もできずに、処遇改善だけを先行して進めざるを得ない地場建設業が現実に現れ始めたからだ。
政府が旗振り役となり、建設産業界では日本建設業連合会と加盟企業がけん引する長時間労働是正、時間外労働の上限規制、週休2日、現場の4週8休・閉所といった働き方改革は、担い手確保・育成に直接つながる一方、業務のあり方や意識改革と実際に発生するコストアップ吸収なども同時に進めなければならない。建設産業界がいま向き合う「働き方改革」と「生産性向上」はセットであり、コインの裏表の関係と言っても過言ではない。
しかし現実はどうか。建設生産や調達などさまざまな分野での生産性向上の目算が立たない段階で、働き方改革に取り組まざるを得ない中小元請建設業や、過去の教訓を生かすことができるかどうか不安を抱える専門工事業者は、いま立ちすくんでいる。
生産性向上と総労働時間抑制にいち早く取り組んだ西松建設の近藤社長が抱える不安は、大手を含むすべての建設企業経営者の不安でもある。
近藤社長は、「ながら残業などの意識を社員が完全に払拭(ふっしょく)し、長時間労働是正が成功した時、もしどうしてもその日に仕上げなければならない業務があっても帰宅してしまう可能性はある。建設企業として社員の仕事に対する意識をどう持ってもらうか、検討しなければならない」と説明する。
この不安の構図は、準大手と比較して人員など企業規模ではるかにしのぐ大手企業も同様だ。大成建設の村田誉之社長は、「一番大事なのは働き方改革」と前置きした上で、「しかし一方で(退社時間だからと)仕事を投げて帰るわけにはいかない。ただ、いままでと同じ対応をしていたら違法になってしまう」と罰則付き時間外労働時間の上限規制を念頭に話す。
安倍政権は生産年齢人口(労働力数)減少の中で、経済成長を持続させる取り組みを開始した。取り組みの一環として、政府と国土交通省など行政は、建設産業界が働き方改革と生産性向上や技術革新の取り組みに支障を来さないよう、例えば民間発注者も対象にした適正工期設定ガイドライン策定や、公共工事での先進技術積極導入を、17年12月の新しい経済政策パッケージに盛り込んだ。
中小企業に対しても、ICT導入のための資金・ノウハウなどの支援やスムーズな事業承継支援のための新たな施策など、さまざまな目配りをきかせた政策を打ち出した。
それでも、目配りからこぼれ落ちる可能性や建設生産システムが大きく変わる可能性に不安を抱く中小元請けや専門工事業者が多いのも事実。
しかし、過去の教訓を生かしながら劇的な変化の波にうまく乗れれば、持続的成長の道筋が見えるチャンスでもある。そのためには本来、目的を実現させる手段であるべき働き方改革を、目的化させないための大局観を建設産業界が持つことが必要だ。さまざまな生産性を向上させて、初めて働き方改革は成立する。建設産業の各企業は持続的成長のかぎを探る時期に入っている。
(第1部おわり・秋山寿徳)
残り50%掲載日: 2018年1月31日 | presented by 建設通信新聞