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連載・次世代建設経営戦略研究講座・夏期集中連載(3)/~5Gとウィズコロナ、激変の時代の経営戦略見直し~/次世代建設産業モデル研究所所長 五十嵐 健氏
// 本文の表示 画像がセットされていない場合は、画像分の余白ができてしまうのでtxtクラスは使わない。 ログインしていない場合も画像は表示しない。?>【バックキャスティングによる経営計画を/ストック利活用時代のビジネスモデル構築へ】
前回は10年にわたる成長企業の経営手法の研究から、その企業力強化に共通点があることを述べた。今回は経営ツールとなる経営計画手法について述べたい。
近年、銀行や株主から経営計画の提出を求められるが、先に行くほど計画の予実の齟齬(そご)が大きくなることが多い。これは手法に問題があるためで、特に長期にわたる改善努力が企業力強化の決め手となる建設業にとって、企業業態に合ったひと工夫が重要になる。
建設会社は受注生産のため、事業の計画に当たり、手持ちプロジェクトや受注予定の見通しが重要で、その積み上げと進捗管理が重視される。一方、他の製造業では将来の製品開発や製造の決め手となる技術開発に関する投資戦略が重視される。このため、将来の事業目標の設定とそれに対する実施計画の策定を行うバックキャスティング手法を使うことが多い。特に5G(第5世代移動通信システム)とウィズコロナのような激変の時代には、この計画策定手法が有効だと考えている。
そのやり方は、(1)まず自社と社会にとって望ましい将来像(ビジョン)を描き、(2)現時点における課題と可能性を洗いだし、(3)ビジョン実現のための手順を考え、(4)最後に時間軸を入れてそれをアクションプランに仕上げる計画手法だ。詳細は最近よく言われるSDGs(持続可能な開発目標)の策定手順に紹介されているのでそれを見ていただきたい。
この計画で重要なのは将来ビジョンと目標実現のプロセスで、目標数字はその達成度合いを示す管理項目になる。もし、状況の変化や内部要因によって達成に遅れが出るなら、プロセスに修正や補強を加えて、あくまでビジョンの達成を重視する計画手法だ。前回紹介したトヨタやテスラ、ソフトバンクなどのやり方は、自社のビジョンを重視し、状況の大きな変化に対応してやり方を大胆に変更した結果にほかならない。
図はストック利活用時代の日本と世界の建設産業の事業イメージの違いを分かりやすく示したものだ。世界の建設産業は下段の事業サイクルで考えているが、日本企業は依然として高度成長期の直線型スコープで考えている。
しかし、不動産業や住宅産業、設備や装置産業では、近年下段のサイクル型で事業戦略を考え、一定期間で発生するメンテナンス需要に対応しながら施設の劣化や顧客ニーズの変化を把握し、維持コストと新たな市場獲得のタイミングを見て大規模な更新や建て替えを行う事業モデルをつくり上げている。こうした事業モデルで高い成長を遂げているのが昇降機や物流装置メーカーであり、大きな視点で考えるとNEXCO(旧日本道路公団)の近年の事業モデルもこのパターンになる。
一方、戸建住宅メーカーでは新築とリニューアル部門の事業間関連が機能せず顧客の潜在ニーズをうまくつかむことができずに事業拡大のチャンスを失うケースが目立つ。また大手ゼネコンも以前からの大型工事重視の体制から脱け出せず、改修工事の生産性向上と顧客満足度を両立させる新たなビジネスモデルが構築できずに悩んでいるのが現状である。
こうした企業では、事業計画作成の際にプロジェクト指向の従来のやり方を改め、一度バックキャスティング手法で作成を行ってみるとよいだろう。特にプロセス(2)と(3)の段階で多くの気付きがあるはずだ。ただ、そのためには半年ほどの時間がいるため、秋以降の長期計画改定時に行うとして、この夏の緊急事態への対応では、その試行としてまずは自社の将来ビジョンと当面の事業環境変化を考え、自社の将来ビジョンと競合他社に対するポジショニングの評価を行ってみてはどうだろうか。
それに合わせて、前回4・5月集中連載の「令和の日本はストック利活用による経済発展の時代へ」を読み返し、社内で議論していただければ新たな気付きがあるものと考えている。
残り50%掲載日: 2020年7月15日 | presented by 建設通信新聞