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  • 治水新時代・防災協働への転機〈1〉流域治水への大転換/東日本台風上陸から1年/河川決壊に衝撃/気候変動の危機が現実に

     2019年の台風19号(東日本台風)が日本列島に上陸してから、きょうで1年を迎えた。記録的な大雨に伴う河川流量の増加で全国142カ所の堤防が決壊し、関東、甲信、東北地方の広範囲にわたって甚大な浸水被害を引き起こした大災害は、気候変動の影響が既に表れていることを世の中に知らしめた。河川管理者による河川区域内の対策だけでは限界があると再認識した国土交通省は、流域全体で治水に取り組む流域治水へ転換した。その影響はまちづくりや住まい方、災害対応の担い手である地域建設業など多方面に及ぶ。“協働”が気候変動と向き合う時代のキーワードとなる。

     

     「国管理の河川が12カ所も決壊するという未曽有の事態」。台風上陸から3日後の19年10月15日に開かれた記者会見の冒頭、信じられないといった様子で語った赤羽一嘉国土交通相の言葉が、国交省に走った衝撃の大きさを物語っている。

     

     海水温の上昇による上空への水蒸気の大量流入で雨の降り方や降雨量が変化し、それが外力の増大となって河川に重大な影響を及ぼす。こうした気候変動の影響は以前から指摘されていたが、将来起こるものではなく、顕在化した目の前の危機であるという現実を東日本台風は突き付けた。

     

     赤羽国交相は会見から3日後の10月18日、社会資本整備審議会に対して、気候変動を踏まえた水災害対策のあり方検討を急きょ諮問する。9カ月間にわたる議論の末、20年7月に答申がまとまった。

     

     答申の柱に位置付けられたのが、河川区域、集水域、氾濫域をまとめて1つの流域と捉え、国、都道府県、市町村、企業、住民など流域のあらゆる関係者が、ハード・ソフト一体となった対策に取り組む流域治水の考え方だ。

     

     貯留機能の強化や流下能力の向上といったハード中心の氾濫防止対策に加え、災害リスクが高いエリアの土地利用規制、移転促進、BCP(業務継続計画)策定、官民連携によるTEC-FORCE(緊急災害対策派遣隊)の体制強化など、被害対象を減らす対策と被災から早期に復旧・復興する対策を総合的に展開することで、多層的に水害へ備える点が特徴と言える。

     

     流域治水の推進には、地方自治体のまちづくり・農政部門や企業、住民など、これまで治水に直接関与してこなかった流域関係者との協働が欠かせない。国交省水管理・国土保全局の担当者は「ハードが治水に有効なのは事実。ただ、限界がある。河川管理者は河川整備で引き続き汗をかくので、流域の関係者にも一緒に行動してもらいたい」と、協力を仰ぐ。答申をまとめた小池俊雄社会資本整備審議会河川分科会長も「国、都道府県、市町村、企業、市民団体、自治会など国民一人ひとりが協力しあう体制が必要」と指摘する。

     

     国交省は、流域治水の関係経費を21年度予算の概算要求に初めて盛り込んだ。インセンティブ(優遇措置)の1つとして、雨水貯留浸透施設を整備する企業などへの補助率かさ上げと税制支援措置の創設を予定する。井上智夫水管理・国土保全局長は「協力していただく時の負担をできる限り減らすことで、取り組みを促進していきたい」と意気込む。

     

     予算のほか、水系ごとの流域治水の全体像作成を第1段階、気候変動の影響を反映した治水計画への見直しを第2段階と位置付け、高まる水害リスクへの対応を急ぐ。現在は第1段階で、109ある1級水系を対象に、河川、流域、ソフトの各対策を明示する流域治水プロジェクトを20年度内にまとめる方針だ。

     

     川沿いに都市が発展し急峻な地形が多い日本で治水は、国土の未来をつくることにほかならない。7月の豪雨災害を検証している球磨川以外の108水系で国、都道府県、市町村などによる流域治水協議会が9月末までに立ち上がった。流域治水プロジェクトの策定に向け、地域の特性に応じた未来づくりの検討が始まっている。

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    掲載日: 2020年10月12日 | presented by 建設通信新聞

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