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治水新時代・防災協働への転機3/荒川氾濫なら国内経済麻痺/広域避難に課題で高台整備
// 本文の表示 画像がセットされていない場合は、画像分の余白ができてしまうのでtxtクラスは使わない。 ログインしていない場合も画像は表示しない。?>2019年の台風19号(東日本台風)は、年々激甚化・広域化する豪雨に対する河川施設の強化や貯留施設の整備といった従来のハード対策の限界を見せつけた。治水能力を超えた水害に対する住民の安全確保策が求められる中、国土交通省と東京都が施策の1つの核として打ち出したのが「高台まちづくり」だ。高規格堤防と高台化した公園、民間建築物を高層の通路で接続し、安全な避難環境をつくる。実現のためには民間の協力と地元の理解が不可欠であり、国と都は、これらを巻き込んだ実施体制の構築に乗り出す。
高台まちづくりは、国交省と都が立ち上げた連絡会議が、9月に発表した「災害に強い首都・『東京』形成ビジョン」の中間まとめに盛り込まれた。荒川などの氾濫による大規模水害を首都直下地震と並ぶ脅威と位置付け、壊滅的な被害を回避するための取り組みとなる。
ビジョンによれば、荒川の堤防が右岸21㎞(北区)で決壊した場合、浸水面積はおよそ98km2にわたるという。氾濫した水は、大手企業や銀行・証券などの本社が多く立地する大手町・丸の内・有楽町に達する。浸水区域のほぼ全域で2週間以上浸水が継続する。国内経済活動の麻痺は避けられない。
「ここにいてはダメです」と住民に率直に危険を訴えるのは、東部低地帯に位置する江戸川区だ。同区を始め、墨田・葛飾などの江東5区は、荒川氾濫時に大半が水没すると予測されており、他県を含む広域避難を提唱している。避難対象となる住民は250万人にのぼる。災害の発生が不確実な状況で、これだけの数の人間がどのように避難すれば良いのか。道筋が定まらなかった東日本台風では、広域避難を呼び掛ける基準の降雨量に達しながらも実施を断念、課題が残った。
「水害に備えて広域避難の計画をもっていたが、鉄道の計画運休など、想定どおりの避難には課題があると分かった」と当時、東京都都市整備局の技監を務めていた上野雄一都市整備局長は指摘する。「避難に加え、住んでいる場所に避難スペースを確保する施策の必要性が強く認識された」
こうした反省を踏まえてまとまったビジョンに盛り込まれた高台まちづくりでは、避難高台にもなる高規格堤防の整備や公園の高台化を推進し、必要に応じて土地区画整理事業を一体的に実施するなど、面的に防災基盤を整えることになる。事業には地元住民の理解が欠かせないと連絡会議でも繰り返し指摘された。仮移転などで負担を求める場合もあるからだ。住民理解の“一丁目一番地”と言える防災意識の醸成に向けて、地元区の都市計画マスタープランに水害対策や防災の観点を位置付けることもビジョンに明記された。
9月に施行された改正都市再生特別措置法もこの動きを後押しする。改正で地方自治体が策定する立地適正化計画の記載事項に、防災指針を追加した。地元のまちづくりで中心的な役割を担う区市町村に計画段階から防災施策を取り入れてもらうことが狙いだ。
高規格堤防の後背地では、民間の住宅整備や再開発の実施が想定される。計画段階から避難施設の整備が求められるのは、民間も同様だ。9月に国交省が水害対策に貢献する民間建築物の容積率を緩和する考えを示し、小池百合子都知事も「都市開発諸制度の見直しを検討する」との方針を都議会で答弁した。
官民のさまざまな主体が一致団結して防災まちづくりを推進するにはどのような体制が求められ、何が課題となるのか。今後選定が予定されている高台まちづくりのモデル地区での実践は、災害に強い首都の形成を目指す都と国の本気度を占う試金石になる。
残り50%掲載日: 2020年10月14日 | presented by 建設通信新聞