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  • 建設論評・都市の歴史の終焉がもたらすもの

     新型コロナウイルス感染症の収束はいまだおぼつかないが、経済の回復に力点が置かれ始めている。社会活動のためにも経済が重要であることは言うまでもない。そしてその経済問題は、実は都市活動のあり様にかかっている。都市が疲弊すれば、たちまち経済活動が滞る。都市のロックダウンはまさにそのことを示している。

     

     米国での新型コロナの感染拡大はとどまることを知らない勢いの中、ニューヨークでは都市の疲弊を象徴するような出来事が起きている。老舗のホテルが次々に閉鎖に追い込まれているのだ。1924年開業の名門ザ・ルーズベルト・ホテルも閉じられるという。

     

     また、セントラル・パークの池の畔にあるレストラン「ローブ・ボートハウス」も閉鎖することになったと聞いて驚いている。かつて訪れた筆者にしてみれば、ニューヨークといえばセントラル・パーク、そしてセントラル・パークといえば「ローブ・ボートハウス」だったのである。貸しボートがあって、食事とボート遊びができる、ニューヨークの空気を味わうことのできた大好きな場所だった。その場所と伝統が失われる。都市の明かりとも言うべき光景を失うことは、都市の大切な個性を失うことに等しい。同様の事態はパリでも起きている。著名な劇場やレストランなどが次々に閉鎖に追い込まれているというのだ。日本でも由緒ある旅館が営業を停止するなどの事態が次々に報道されている。

     

     都市の歴史を形づくってきたスポットが失われれば、都市の秩序と記憶も失われていく。やがて、さまざまな犯罪も起こり始める。ニューヨークでは殺人や強盗、窃盗などの犯罪が例年に比べて一気に拡大しているという。もちろん、失業者、空き家も増えている。一時期持ち直したといわれていた治安が再び悪化しつつあるのである。

     

     翻って、日本はどうだろうか。犯罪が増えているという話は聞かないが、これから予想される景気後退に伴って、都市が疲弊し、そこかしこにほころびができ始めれば犯罪は増加するだろう。

     

     フランスの作家バルザックは、都市には表の顔と裏の顔があると言った。都市の裏には表には出せない後ろめたい様相が描かれているものだが、それも含めて都市という存在であることは言うまでもないだろう。犯罪のような悪や、魔物のような犯罪者も都市の一部として消し去ることはできない。しかしながら、そこに一抹の真実が含まれているとしても、いまニューヨークやパリ、東京などの大都市に起こり始めている「歴史の閉鎖」とそれに関連した問題は都市を裏と表の両面からむしばんでいるように思えてならない。その結果、都市の継続性が損なわれる。都市は一朝一夕に出来上がるものではなく、長い年月をかけて出来上がるのだから。

     

     それでも、都市はとどまることを知らない。いまコロナで荒廃しつつあるとしても、都市は荒廃するのと同時に再生しようとしている。と考えるべきなのかもしれない。そう思いたい。

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    掲載日: 2020年11月12日 | presented by 建設通信新聞

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