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  • 連載・土木技術者が歩く走るインフラツーリズム(22)

    【重機のない時代に大規模埋立】

     

     成田空港、羽田空港、横浜港といった日本の玄関口が面する東京湾岸には、多くの海浜公園や自然保護地区、遊歩道などがある。けれど、これらの施設は点として存在しており、線にはなっていないのが現状である。

     

     土木系大学教授や土木系技術者で構成される「NPO法人シンクタンク日本東京湾トレイル推進メンバー」は、東京湾岸に点在するこれらの優れた施設を線で結び、散歩・ジョギング・自転車通行可能な東京湾トレイルを創ることを目指して活動している。

     

     今回、上記メンバーが歩き、走りながら見て感じた東京湾岸インフラツーリズムの模様を月1回のペースで掲載する。乞うご期待!

     

     今、横浜と言えば、ランドマークタワー(高さ296m)を中心とした海側に発展した「みなとみらい21地区」(埋立地)であるが、以前は地図上にある釣り鐘状の土地が横浜の中心であった。この釣り鐘状の土地とは、江戸時代中期に埋め立てられた吉田新田のことである。

     

     今回は、江戸時代につくられた吉田新田があった外周を1周した。お三の宮日枝神社をスタート/ゴール地点とし、時計回りに1周すると約9㎞、1時間程度のジョギングであった。その神社は横浜市営地下鉄線吉野町駅徒歩3分または、京浜急行線南太田駅徒歩5分のところにある。

     

     まずは、土木工事用の機械等がない江戸時代に大規模な埋立工事を行った吉田新田のこと、次に、この難工事完成を祈って人柱伝説のあるお三の宮日枝神社ことについて紹介したい。そして、ジョギングの後半の中村川に面したところに気になる廃虚らしき建物を発見した。

     

    ■吉田新田

     

     吉田新田は横浜市にある大岡川と中村川、JR根岸線に囲まれた釣り鐘状の土地である。今から350年ほど前の1667年に吉田勘兵衛によってつくられた。吉田勘兵衛は石材や木材などを取り扱う江戸の商人であった。吉田新田の名前は、吉田勘兵衛の苗字からつけられている。

     

     工事方法についての細かい資料は残っていないが、釣り鐘状の広大な入り海を新田にすることは、土木工事用の機械などがない時代に大変な作業だったと思われる。工事は1656年に始まった。翌年、大雨のため堤が流されてしまうが、再び新田開発の許しをもらって工事を再開し、1667年に完成した。

     

     広さは、約35万坪(115万5000㎡。横浜スタジアム約44個分の広さ)にもなり、約5分の4が田んぼで、残りが畑や屋敷として使われた。江戸時代後半には、横濱新田や太田屋新田の埋め立てが進み、そこには現在、元市役所や横浜スタジアム、中華街などがあるが、現在の地図を見ても吉田新田の形をはっきりととらえることができる。

     

    ■お三の宮日枝神社

     

     この神社は新田の鎮守として、新田住民の安寧幸福や五穀豊穣を祈り、『横浜開拓の守護神』である。新田開発が難工事だったことから、横浜に広く語り伝わる「お三の人柱伝説」が生まれ、「日枝神社」が「お三の宮」と呼ばれるに至る。諸説あるが、お三の人柱伝説とは、吉田勘兵衛に仕えていたお三という女性が、今までの恩に報いたいと自ら人柱になりたいと申し出た。人命の尊さを説いて押し止めたがお三は聞き入れなかった。のちに白衣に身をつつんだお三は、合掌して天を仰ぎ大海に身を投じ、埋立の大事業完遂の人柱となったとのこと。

     

     外周距離にして、約4分の3が終わった辺りに、とても気になる茶色い廃虚のような建物があった。足を止め周辺を歩いたが何の建物かわからなかった。のちほど調べたところ、ことしで築93年。元は衛生研究所で、細菌の研究が行われていた「神奈川中央衛生試験場」であった。現在は神奈川県教育委員会が管理し、主に倉庫、時にロケ地として活用されているそうだ。

     

     さらに、その建物の斜め方向の中村川に架かっている赤いレトロな感じの橋梁も気になったので調べたところ、「浦舟水道橋」という橋梁名があり、ピン結合プラットトラス鉄橋構造の鉄橋としては日本最古のもので現在は横浜市の歴史的建造物に認定されている。

     

     走りながらの紹介であったが、吉田新田の重機等がない当時の大規模埋立工事や人柱伝説について想像や空想しつつ、新たに発見した歴史的建造物に対し、不思議な何かに惹かれ叙情的になるのは何故だろうか。

     

    (東京湾トレイル研究会 下池季樹)

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    掲載日: 2020年11月12日 | presented by 建設通信新聞

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