当サイトについて 採用ご担当者様
会員登録はこちら 求人検索

建設技術者向けNEWS

建設技術者の方が知りたい情報を絶賛配信中
会員登録いただくと無料で閲覧可能です!

  • 建設論評・往来による相互理解

     感染症対応のため人の往来が大幅に減っている。例えば、2月上旬と比較した公共交通機関の利用減少率は5月初旬が最大で、東京で70%弱、大阪で60%強の減少であった。現在でも、それぞれ約25%、約20%減少している(グーグル調べ)。また職場への出勤の減少率は、同様に最大で東京60%、大阪50%、現在はそれぞれ約15%、約10%となっている(同)。

     

     往来が難しいとなると、その代替として情報通信技術を活用したテレワーク、オンライン会議、メール審議などが採用され、バーチャル・リアリティー技術による体験やプレゼンテーションなども脚光を浴びる。往来しなくてもコミュニケーションに困らない状況ができ上がるという意見も多いし、行政事務のデジタル化がそれを後押しするかもしれない。だが、それには限界がある。情報通信技術によるコミュニケーションは質的な特異性を帯びていて、往来による相互理解を代替できないからである。

     

     コミュニケーションには2つの類型がある。1つは小集団コミュニケーションで150人程度までの規模。対面による相互交流によって複雑でたくさんの情報を伝え合うことができるが、遠くまでは伝えにくい。もう1つは大集団コミュニケーションで数百人以上の規模。情報を記号に託して伝達し、遠くまで伝えることができるが、伝達できるのは記号化できる情報に限られる。

     

     そして、小集団コミュニケーションは、人間に信頼を置いて、お互いの共感を認識することで関係を築く。顔をわかりながら相互に理解するのである。一方、大集団コミュニケーションは、貨幣、法律、権威、ブランドなどの記号情報を信頼し、情報システムに支えられた機能を介して理解する。間接的、合理的な関係が卓越するのである。

     

     気持ちを十分に伝えるためには「足を運ぶ」し、人を深く理解するには「面と向かう」必要がある。協力関係や真の合意は「寄り合う」ことによって生まれるし、「現場に身を置く」ことなしに理解は成り立たない。これらはいずれも心の働き、自律的な意識作用、人間的な意味の発見などを伴う出来事で、小集団コミュニケーションでの相互理解が働いているのである。

     

     情報通信技術は大集団コミュニケーションを容易にし、その発達を支える。しかし、小集団コミュニケーションを支えることは極めて難しい。心の働きの伝達、意識に対する自律的な作用、意味の発見などの場を担うような技術ではないからである。

     

     往来のためのインフラは、輸送のためだけでなく、情報通信システムによっては代替できない小集団コミュニケーションを支える役割を担っている。コロナ禍のもとでも安全に往来できる環境を整えなければならないのである。

     

     そのための道は2つあるだろう。1つは、安全な往来のためのオープンスペースを十分に確保すること、もう1つは、AI(人工知能)の能力を高めて小集団コミュニケーションを容易にし、往来への負荷を軽減することである。

     

     ル・コルビュジエは、都市が備えるべき機能として「住む」「働く」「楽しむ」のほか「往来する」を挙げている。安全な往来は、都市が存立するための基礎的な条件なのである。(羅)

    残り50%
    ログインして続きを読む 会員でない方はこちらよりご登録ください

    掲載日: 2020年12月1日 | presented by 建設通信新聞

前の記事記事一覧次の記事