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  • 特別寄稿・-DXという概念の創出が問うもの-佐藤総合計画社長 細田 雅春

    【真のネットワーキングの意味が問われ始めている】

     

     新型コロナウイルス感染症が再び猛威を振い始めている。特に欧米諸国ではそれが顕著である。EU(欧州連合)諸国でも、9月半ばくらいまでは比較的沈静化していたものの、10月に入ってから急激な勢いで感染者が増加、フランスやイタリア、英国などの各国では特に深刻で、1日に2万人を超えるほどの勢いとなっている。さらにいまや世界最大のコロナ感染国である米国では、12月に入って1日に20万人もの感染者が報告されている。このように、都市活動がほとんど機能しなくなる状態が再び到来しつつあるようだ。日本でも、冬の気配の中、第3波ともいえる状況で深刻さは増すばかりである。

     

     このような状況の中で、デジタル環境の整備により、社会がさまざまな変化と革新へと歩み始めている。直接的な対面型のコミュニケーションから何らかのハードウェアを通しての間接的なデジタル・コミュニケーションへの変革であるといってもよいだろう。これは言い換えれば、デジタルトランスフォーメーション(DX)への第一歩ともいえるが、そこで重要になるのは単に相互のつながるスピードの向上だけではない。無数ともいえる「連携の確立」と「未知の発見」である。

     

    ◆最も原初的な能力はアートに対する感性

     

     ところで、人間の能力には2つの側面があることに注目したい。1つは自己の世界を広げる能力である。もう1つは個を独立させる能力である。個の保全といってもよいが、個を確立させることである。こうした能力をさらに拡張することができるようにするのがまさにDXなのである。DXが生み出すのは、いままで出会うことのなかった連携=ネットワーキングによって生まれる新たな可能性である。対面型コミュニケーションでは到底実現できないコミュニケーションの方法の変化による革新こそが、新型コロナ禍によって逆説的ながら、一挙に見えてきたということなのだ。

     

     しかしながら、デジタル・コミュニケーションにおいてさらに付け加えられなければならないのは、「アートに対する感性」である。人間が、広大無辺のネットワークを流れる無限のスピードを持つデータに対処することが可能になるのは、人間が本来備えている最も原初的な能力であるアートに対する感性が直感的に作用するからである。無限の状況から何を選ぶかは、まさに直感なのである。その直感を支えるのがアートだといってもよいだろう。

     

     この関係は人間の脳の機能に類似している。脳は神経細胞=ニューロンの集まりであり、ニューロンのネットワークとして構成されている。そして、大まかにいってニューロンを支えているのがグリア細胞である。アートと人間の直感との関係も、人間の脳におけるニューロンとグリア細胞の関係に近いように思える。アートの持つ感性が、いかにコミュニケーションをぶれることなく豊かに誘導していくのか。

     

    ◆直感こそが無機質なデジタル空間つなぐ

     

     人類の起源は、遡れば200万年前のホモ・ハビリスから始まるとされるが、現代人のもとになったホモ・サピエンスが誕生したのはそれよりももっと遅く、約25万年ほど前だといわれている。ホモ・サピエンスはいわゆる旧人と呼ばれるネアンデルタール人と同時に存在していたが、およそ4万-2万数千年前にネアンデルタール人が消滅し、クロマニョン人、すなわちホモ・サピエンスだけが現生人類として存続することになった。そうした人類史の研究の中で明らかになったのは、ネアンデルタール人は現生人類より脳の容量が大きく、頑健な体格を持つ人種であったが、ホモ・サピエンスに比べて小集団による生活をしていたという。

     

     すなわち、相互のコミュニケーションが少ないため、情報処理や伝達能力を活用する機会に恵まれなかったということだ。一方のクロマニョン人は、体力的にもネアンデルタール人に比べると劣っていたと考えられているが、クロマニョン人はより大きな集団で暮らしたことで、コミュニケーション能力が発達した節があるといわれている。コミュニケーションが発達すれば、情報の伝達が容易になり、生存競争的にも有利になるだろう。その意味ではコミュニケーション能力が、現代社会においても極めて大きな意味を持つことになったのは偶然ではない。

     

     いま、そうしたかつてのコミュニケーションの形から、新たにデジタル社会のコミュニケーションへと進化が始まったのである。この現実こそ、新型コロナによって呼び起こされた新たなトランスフォーメーションではなかろうか。

     

     さらに重要なことは、クロマニョン人は、アートについての意識を身に着けていたといわれていることだ。壁画や貝殻による装飾品などにもその痕跡が残されている。すなわち、ホモ・サピエンス(クロマニョン人)は、4万年前から既に現代に通じる重要な能力を身に着けていたということなのである。すなわち、コミュニケーション能力に加え、ネットワークの中で情報を読み取り、処理するアートという直感の部分である。

     

     新型コロナ感染症によって自粛を余儀なくされた現代社会にあって、これからDXが進化しようとしているいま、新たに見えてきたのはまさに時間を超えた4万年前のネアンデルタール人消滅の事実である。ネットワークでつながった中でのコミュニケーションのあり方と、無機的なデジタル空間をつなぐには、アートという直感こそが必要であり、それが人類の進化を支えてもきたのだということである。

     

     新型コロナによって、都市のロックダウンという事態から、この3つの概念の新しい世界に踏み込み始めたということなのである。それはまさにDXによる新たな世界の創出である。

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    掲載日: 2020年12月16日 | presented by 建設通信新聞

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