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建設論評・ジョブ型雇用の展望
// 本文の表示 画像がセットされていない場合は、画像分の余白ができてしまうのでtxtクラスは使わない。 ログインしていない場合も画像は表示しない。?>いままで認識されていなかったのに、新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)が引き金になって顕在化している問題がある。ジョブ型雇用だ。
ジョブ型雇用とは、職務、勤務場所、労働時間などの条件を明確にして採用する個人責任制の職務分担システムである。
わが国では、職務を限定せず、責任を明確にせず、集団責任を重視して職務を分担する。仕事がなくなれば、ほかの仕事に配置転換する。会社命令で転勤もある。これをメンバーシップ型雇用システムと名付けている。
海外勤務の経験者は、両者の違いを実感しているだろう。
ジョブ型雇用のシステムは米国人研究者フレデリック・テーラー(1856-1915年)がつくり上げた。技術者出身の彼は、それまでの勘や経験に頼る管理方法を排して労働と科学を結び合わせた研究をもとに作業の科学化を試みた。そして、労働者を最も経済的な作業の動作に導いた。この科学的管理法を確立した彼は、近代的マネジメント理論の父と称されている。
彼の原点は、職務規定(ジョブディスクリプション)に具体的に明記した仕事だけを行い、その仕事がなくなったら即失職である。別の仕事への配置転換や転勤はない。仕事が同じだから俸給も変わらない。
19世紀末の米国で、この理論が工場制機械工業の大量生産の職場に適用性があるとの理由で普及した。だが、同じ仕事を続ける限り、仕事に対する評価は変わらないし、人間を仕事をする道具として扱い、社会性や人間性が欠け労働強化につながるなどの批判が出て、その後、多くの国々でさまざまな改良改善が加えられ、その形態は変化している。例えば、仕事がなくなっても解雇せず、別の仕事へ配置転換の機会を与える配慮をしている。この変化の方向は、奇しくもメンバーシップ型に向かっているわけである。
わが国では日本のシステムを軽視する論調があるが、アベグレンやドラッガーは日本のマネジメントを評価し、倣えとまで言っている。だから、日本的な良さを見直すべきなのだ。クラスター対策として、単純に古典的なジョブ型雇用システムの導入を図ることは現実的ではないのである。
ジョブ型雇用への移行の難題を2つ挙げる。
採用時に、ジョブ(職務)の遂行能力を備えることが前提だが、わが国では新卒者にその能力を望むことは不可能である。すると、その指導教育の責務を教育機関が担うための改革が必要になる。教育界を巻き込む社会的な問題になる。未熟な初心者を採用した後にOJT(職場内訓練)で育てる伝統的な方法は捨てがたいのである。
わが国では解雇要件を厳しく限定した判例が法理的に確立している。だから、職務を契約で規定しても、職務が不要になった場合や業績不振を理由にした解雇はほとんど不可能であり、配置転換や転勤は避けられない。
和魂洋才の日本流ジョブ型を模索する動きが出てくるゆえんである。その結果、和洋折衷の最適なシステムが見つかるかもしれない。識者の知恵に期待したいものである。 (康)
残り50%掲載日: 2020年12月18日 | presented by 建設通信新聞