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  • 2020年総括記者座談会/新型コロナ 構造転換促す

     2020年は1月以降、世界が新型コロナウイルス感染症拡大防止の対応に追われた。全世界で経済活動が停滞、日本国内でも2020東京オリンピック・パラリンピック開催が1年延期されたほか、社会・教育活動にも大きなブレーキがかかった。コロナ感染防止対策を行いながら施工を進めた建設産業も、民間発注案件を中心に一部発注や引き渡しの延期のほか、海外プロジェクトでは工事中断を余儀なくされた。一方、コロナ禍での産業・企業の対応は、結果として建設DX(デジタル革新)の取り組みを加速させた。20年を総括する。

     

    ◆働き方改革、建設DXに拍車/人・モノの移動が停止

     

    A ことしは新型コロナに始まり、コロナで終わる感が非常に強い。建設産業にとってどんな1年だったのだろうか。

     

    B 新型コロナが世界各地に広がり、世界的に人・モノの移動が一時的に止まるという経験は、ほとんどの人間が初めてだったと思う。いまワクチン接種開始というニュースが先行きに少し期待を持たせるけれど、足元は本格的な冬を迎え増加傾向に歯止めがかかっていない。

     

    C 街の雰囲気の暗さはなかなか晴れないけど、コロナの影響を業種別の天気図にすると、建設業は旅行業や飲食・サービス業などの他業種ほど悪くないという見方が多い。施工ストップや発注激減、資金繰り悪化など最悪の局面には至っていないのが理由だ。

     

    D ただ東京都もそうだけど、予算や人員配置などでコロナ対応を優先するために、発注延期などに踏み切るケースが地方自治体では多くなっているね。

     

    E 確かに優先順位で工事発注が遅れたり延期することがあったのは事実だと思うけど、その中でも中小・零細企業への目配りはしていると思う。政府も同じで、コロナ禍でも雇用を維持し経済への影響を極力少なくするには、企業数で99%以上、雇用でも半数を占める中小企業の存続が欠かせないからだ。

     

    F コロナ対応の補正予算で雇用維持にも目配りする考え方は、規模と期間が拡大の一途をたどる雇用調整助成金の存在からも透けて見える。

     

    A その中で建設産業にとってコロナ対応はなにをもたらしたのだろうか。

     

    G 端的に言うと新型コロナが、働き方改革や建設DXの取り組みに拍車をかけた。特に非常事態宣言を受け企業に対し出社制限を要請、各企業は一斉に在宅勤務の拡大に踏み切った。

     

     結果、オンライン会議や業務のIT化が進んだ。IT化・デジタル化は、本社・支店と各現場をつないだ。特に中小企業に対してはコロナ対応として手厚いIT化促進支援があり、それまでIT・デジタル投資に二の足を踏んでいた中小企業でも、本社と現場がつながり、工事書類作成など業務支援の可能性も一気に高まった。

     

    A 菅政権発足もことしのトピックスだ。

     

    B 経済停滞に警戒感が強く中小企業に目配りをする菅政権は、防災・減災、国土強靱化5か年加速化対策だけでなく、地域活性化を重視する地方建設業界も歓迎していると思う。

     

    ◆「流域治水」へ新たな幕開け/多発する災害

     

    A 九州南部を襲った豪雨で球磨川が氾濫し甚大な被害となった7月豪雨を始め、台風9号、過去最大クラスの勢力と言われた台風10号のほか、12月には短時間の記録的な大雪で車の立ち往生が関越自動車道で発生するなど、ことしも多発する災害に日本列島は見舞われた。

     

    B 一昨年の西日本豪雨、昨年も強風による停電長期化が千葉県内などで深刻な影響を及ぼした台風15号、記録的大雨によって各地で河川堤防決壊を招いた台風19号など、災害の激甚化が当たり前になっている。

     

    C だから国は、今年度が最終年度の事業規模3年7兆円の「防災・減災、国土強靱化3か年緊急対策」を評価、2021年度から25年度までの5年間で事業規模15兆円の防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策を後継施策として12月に閣議決定した。その意味で、防災・減災、強靱化のための投資を今後も継続する考えを鮮明に打ち出したと言える。

     

    D 5か年加速化対策の実行は公共投資の着実な進展を担保するのは確かだ。ただ、多発する災害への対応で大きな特徴となったのは、災害に備えるための政権の強い意思だと思う。

     

    A それは強靱化予算確保への前向きな姿勢のことを指しているのか。

     

    D 違う。安倍政権時代の昨年、政府は台風19号を受け既存ダムの洪水調節機能強化に向けた検討会議を設置した。菅義偉官房長官(当時)が主導する形で議論を進め、治水目的として使うことができなかった発電や農業用といった利水ダムでも、大雨時には水害対策用に使える運用(新洪水対策)を6月からスタートさせていた。「縦割り打破」「規制改革」の表れと一言で言えば簡単だけど、この考え方は過去から指摘されながら実現しなかった“岩盤”課題だった。

     

    A なぜ岩盤と呼ばれていたのか。

     

    D そもそもダムは、発電や農業、上水、工業用水など水をある目的で使うために整備した「利水ダム」と、利水だけでなくダム下流の洪水調節、いわゆる治水も合わせて整備する「多目的ダム」の2つがある。このうち大雨など非常時に利水ダムを治水目的に対応できたら、ダムを新たに整備しなくても洪水調節機能が強化できるのではないかというのが、新洪水対策の考え方の基本となった。

     

    C 利水ダムを治水目的に使用する場合、ダム管理者・所管は国や自治体だから連携することは簡単だと思うけど。

     

    B それは違うようだ。まず利水ダムで治水を目的に洪水調節をするということは、簡単に言うとそれまで貯めていたダムの水を予想される大雨前に事前放流して空っぽにするということだ。でも貯めていた時点よりも水が溜まらなかったら、本来の利水ダムの機能が果たせなくなってしまう。この損失補償はどうするのかという問題にもなるから、要請する方もされる方も最後は二の足を踏むことになる。

     

    D だから政治の出番だった。予報精度が技術革新で格段に向上したことも追い風になった。損失補償は国が責任を負い、統一運用していくことになった。

     

    A 統一運用による具体的効果は。

     

    E ざっくり言うと、洪水への対処能力は倍増、新たな八ッ場ダム50個相当だ。それまで一時的にダムにため込むことができる洪水調節容量は全国で46億m3。これが45億m3増えて91億m3まで倍加する。

     

    D 補足すると災害に備えるための縦割り打破や規制緩和を進める政府の強い意思は、所管ごとに施策を進めるこれまでの考え方から、流域全体で治水に総合的に取り組む「流域治水」政策への転換を促した。その意味でことしは治水も新たな時代の幕開けとなったと言える。

     

    ◆入社式、イベント、総会の中止/景気の低迷食い止め

     

    A ことし最大の話題は新型コロナウイルス感染拡大だ。建設産業にどのような影響を与えただろうか。

     

    B 世界各国がそれぞれの人・モノの往来を閉ざし巣ごもりに入ったことで、製造業やサービス業、卸売業といった非製造業の低迷で景気の急速な悪化が進む中、建設業は倒産・雇用・受注など各種統計で他産業ほど新型コロナの影響を受けていないことが浮き彫りになった。

     

    C 建設市場はこれまで防災・減災、国土強靱化対応への3年間集中投資などもあり、公共投資は安定的に推移しているほか、建築分野も旺盛な民間設備投資意欲に支えられてきた。ただ、民間の設投意欲は新型コロナによってブレーキがかかったほか、各自治体も一部公共投資予算をコロナ対応に振り向けるケースがあった。

     

    D 業界内で先行きへの不安が広がっていたにせよ、建設業が景気の悪化・低迷を食い止める業種として踏ん張ったのは事実だ。例えばコロナ第1波の状況下でも4月から7月までの4カ月間、東京商工リサーチの調査によると業種別企業の倒産が前年同月比で減少し続けたのは10業種中建設業だけだった。雇用でも建設業が防波堤の役割を担い続けた。実際、経済規模と雇用人数が最大の東京の建築・土木技術者の7月新規求人数は前年同月と比較して、4割減、3割減などの業種が相次ぐ中、主要11産業中唯一9.8%減の1桁台にとどまった。

     

    E 東京都内では都発注工事の上期(4-9月)開札が前年同期比24%減で、工期のしわ寄せを懸念する声が上がっていた。中小建設業にとっては大きな影響だ。

     

    F 新型コロナの思わぬ影響と言えば、3月期決算企業の決算開示と株主総会への影響は外せない。もう1つ、建設産業界と行政にとってなじみがあった霞が関ビルの「東海大学校友会館」の営業終了もコロナの影響を映す出来事だった。こちらの方は、個社の入社式、周年イベント、業界団体の総会・懇親会など縮小・中止などに追い込まれるなど大きな影響を受けた。

     

    G 決算作業の遅れは、政府が4月に行った緊急事態宣言で7都府県の全事業者に対する「オフィス出勤者の最低7割削減」要請が決定打となった。だから政府などは有価証券報告書や四半期報告書などの提出期限を9月末まで一律延長したほか、定時株主総会の延期や計算書類などを別手続きにする2段階方式(継続会)、オンラインも活用するハイブリッド型総会導入提起など支援姿勢を鮮明にし続けた。

     

    C でも建設産業界で、株主総会を2段階方式にしたのは、戸田建設と大成温調の2社にとどまった。

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    掲載日: 2020年12月25日 | presented by 建設通信新聞

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