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建設論評・囲い込みの中で
// 本文の表示 画像がセットされていない場合は、画像分の余白ができてしまうのでtxtクラスは使わない。 ログインしていない場合も画像は表示しない。?>建設キャリアアップシステムの登録開始が近づいてきた。最近の説明会では能力評価の取り組みやメリットよりも、登録申請の方法や代行申請による登録推進に重点が移っているようだ。
建設業はゼネコンを頂点に、資本関係こそないが多くの専門工事業者が協力会と称する系列をつくり、それを重層の下請けと技能者で支えるという分業を形成している。慢性的に続く人手不足が売り手市場という温(ぬる)い環境をつくり、生産性の向上がおざなりになっていることは否定できない。そしてキャリアアップシステムの開発の背景には、分業体制の中で専門工事業者の技術力や動員力の価値を評価し、その事業基盤の強化や技能者の処遇を改善する手が打てていなかったということがある。今回の試みはこうした状況と技能者の処遇にどんな改善をもたらすのだろうか。
システムのもくろむ計画の中で、優秀な人材を抱える専門工事業者の受注機会確保、つまり事業基盤強化は進みそうだが、肝心の技能者の情報蓄積の方は難しい。専門工事業者が技能者を囲い込む意識は根強く、彼らのディープな情報は個人情報の保護もあって隠されるものである。
個人を映すカルテをきちんとつくることが評価のベースになるが、日常的に接する職長でもない限り、表面的な情報だけでは人をうまく使うのは難しい。そんな難しさに囲い込みの意識も加わり、処遇につながるような情報は簡単には集まらない。
実際、経験年数主体の年功序列的な情報は目利きにとってさほど重要ではない。歩掛り1つ取っても、設計や使用材料、工事管理の違いによるブレが大きい。一つひとつが異なる建築で、チームのメンバーや他職との調整もある中、就業履歴で技能者のレベルを推測することは至難の業である。
建設業に限らないが、元請け・下請けの関係は仕事のスキルではなく、雇用を保証することを重視してきた。スキルの評価には能力基準がいるが、データとして使いやすい資格や経験、就業履歴が能力の本質ではないことを働く本人たちは実感している。また、いまの雇用関係の中で働くことを労使とも望むなら、標準的な基準をつくっても活用は限られる。
いま能力指標の準備は遅れ、そして代行申請の利便性が推奨されている。所属事業者の受注機会確保などの奨励策もあって代行申請は増えても、技能者にとってキャリアアップシステムは遠い存在になりそうである。このままでは所属事業者の基盤強化の役には立っても、技能者の処遇問題を解決しないのではないか。
EU(欧州連合)では個人データ保護の強化と巨額の制裁を伴う「一般データ保護規則」を5月から施行する。それが人の資格、社会保険加入等を識別する管理データでも、能力評価に用いるデータであっても、使用が厳しく制限されるのが世界の趨勢(すうせい)である。対象が300万人を超すような大システムは、個人データの活用方法、メリットとリスクを慎重に見極める必要がある。システムに必要なのは登録の利便性ではない。技能者によく分かるよう、そのメリットを明確に示すことである。 (東)
残り50%掲載日: 2018年3月1日 | presented by 建設通信新聞