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  • 記者座談会

     2021年、年が明けた。2020年は新型コロナウイルス感染拡大防止に世界中が追われた年だった。安倍政権の経済成長路線を引き継いだ菅政権は「脱炭素・グリーン成長」と「デジタル化」を成長政策の2枚看板に、新型コロナ感染防止へ予算を積み増した。コロナ禍のなかで2021年の建設産業はどう進むのか。

     

    【働き方改革/コロナ対応が拍車中小にもDX浸透】

     

    A 2024年4月から建設業に適用される、罰則付き時間外労働時間の上限規制が働き方改革の代名詞のように言われるが、ことしも話題の1つであることは間違いない。

     

    B 元請けと下請け、都市部と地方問わず、すべての建設企業の関心の1つが働き方改革であることは間違いない。特に昨年ごろからそれまで現場の週休2日(4週8休)実現の難しさに直面している。技術者や技能労働者にとっても、休日を増やし残業時間を減らすだけでは収入の減額にしかならないという現実的問題について、多くの建設企業は解決の糸口が見つかっていない。だから、全国各地で開かれる建設業団体と国土交通省など行政との意見交換で、働き方改革への課題が最重要テーマになっている。

     

    C この問題、肌感覚で難しさを実感し始めたのは、国交省が直轄で週休2日モデル工事を拡大したからだ。

     

    D 確かに、直轄の週休2日モデル工事になると、日給月給の技能者が土曜日も稼働する別の現場に行ってしまい、工程に狂いが生じた事例も地方の中小元請けから報告されている。また同じ社内の技術者でも、直轄現場は休めるのに直轄以外は4週6休さえままならないという不公平感も指摘されている。

     

    E ただ地元企業の実態や地域の実情などを判断して、遠隔臨場などデジタル化が行政規模の割には遅れていると言われてきた、東京都もコロナ対応を機に進めようとしている。具体的には建設局など各局で構成する東京都技術会議の今年度の柱がデジタル化で、書類の削減・簡素化といったペーパーレス化のほかデジタル技術を使った遠隔臨場試行にも踏み込んだ。

     

    B 自治体が重い腰を上げ始めた背景にコロナ対応があるのは間違いない。ただ、いきなり建設DX(デジタルトランスフォーメーション)と言われても中小企業はトップの意識、知識が追いついていないことや、IT化投資余力に不安があることは踏まえるべきだと思う。

     

    【市場の行方/広がる「規模」より「中身」を重視】

     

    A 2021年、建設市場の行方をどう見る。

     

    B 国土交通省の予算案は、20年度第3次補正予算案を加えた「15カ月」予算額で9兆1893億円と9兆円台を確保。防災・減災、国土強靱化3か年緊急対策の後継施策の、5か年加速化対策として事業規模15兆円という数字が盛り込まれ、初年度分は補正予算案に盛り込まれている。

     

     ソフト・ハード一体の国土強靱化対策としての流域治水や、インフラ老朽化対策、生産性向上と成長力強化につながるインフラ整備が柱だ。

     

    C 注目してほしいことは別にある。適正工期の確保に向け、国庫債務負担行為(国債)の活用を拡大し、2カ年国債は4305億円(2370億円の増)、ゼロ国債は1785億円(462億円の増)それぞれ設定したことだ。適正工期確保へ範を示した形で、大きな課題である地方自治体への浸透にも弾みがつく。

     

    A 適正工期確保が重要なのはなぜなのか。

     

    C その前におさらいをしたい。建設産業がいま直面しているのは日本が抱える「人口減少+高齢化」問題そのもの。だから人材(担い手)の産業間確保競争がさらに激化することは避けられない。確保競争に勝つには、魅力がなければならないが、魅力の大前提というか競争の前提となるのが、他産業並みの給与と休暇というわけだ。

     

     ただ建設産業界の現状は競争する前の前提そのもので負けている。だから給与や休暇など処遇改善を産業界全体で進めなければならないとの判断に動いた。

     

     D 続けると、だから建設産業の将来のために業界・行政と政治一体で、「新・担い手3法」を実現させた。このうち公共工事品質確保促進法(品確法)改正で、▽休日などを考慮する適正な工期設定▽債務負担行為や繰り越し活用などの施工時期の平準化▽適切な設計変更――が発注者の責務として位置づけられた。

     

     適切な設定と平準化という2つのキーワードに共通する「工期」への対応がなぜ重要なのかというと、重層構造で技能労働者の多くが日給月給の労務提供を基本とした建設生産システムでは、人口減少+高齢化に伴う人材獲得の産業間競争に勝つための前提である給与・休暇問題は解消されない。解消するかぎは工期の適切設定であり平準化の実現だからだ。

     

    C 工期については、工期が過度な競争の手段に使われないよう、建設業法を改正して工期ダンピング禁止を規定したうえで、基準も作成された。

     

    A ではなぜ工期の平準化で問題提起や不安があるのか。

     

    E 一つは建設市場の過半を占める民間工事の発注者は公共発注者と違い、公共調達の制約は受けない点。もう一つは、公共工事で中小企業が受注の主戦場にしている地方自治体が国交省と同じ対応をすることが難しいからだ。

     

    B 地方自治体の平準化課題はすでに国交省が整理している。具体的には、「財政部局や議会の理解が進まない」「交付金の決定時期が遅く早期発注が進みにくい」「技術職員のノウハウや人員不足」など、地方自治体の課題はほぼ共通していると言われる。

     

    A 予算、工期以外で建設市場に関するトピックスは。

     

    F コロナ拡大状況にも左右されるが、15カ月予算の関連では年度末以降も業務・工事の発注は続くと見られる。その場合、不調・不落が多発することだけは避けてほしい。

     

     もう一つは予算・人員で厳しい立場の地方自治体が直面する課題解消へ、多様な入札とPPP・PFI導入などでストックインフラの維持・大規模改修などに踏み込むケースが増える可能性だ。まさに新たな次代への布石の年になるかもしれない。

     

    【構造転換/企業の強靱化急ぎ将来に備える】

     

    A 工期の適切な設定と平準化が構造転換につながるとの指摘だけど、なぜいまなのだろうか。

     

    B 菅政権と21年という年を考えてみると浮き彫りになるキーワードの一つが「選挙」。衆院議員の任期は10月までだから解散の有無関係なく、ことしは選挙の年だ。

     

     さらに来年の22年7月には参院選挙も控えている。選挙は常在戦場と言われるが、建設業関係団体が推薦する参議院職域代表候補者が活動強化するのは最低でも選挙1年から1年半前と言われている。

     

    A 政治日程も予算拡大の背景としてあるかもしれない。

     

    C そのうがった見方には賛成できない。一つは菅政権の看板政策との関係を踏まえるべきだ。看板政策は「脱炭素」と「デジタル化」。この看板政策、言い方を変えれば、「新事業領域・新ビジネス」と「生産性向上・既存慣習打破」と言える。

     

     建設産業が安堵した国土強靱化加速化対策決定も、政治判断ではない。気候変動と災害の激甚化が全国各地で起きていることで、防災・減災取り組みの理解は格段に進んでいる。

     

    D 菅政権の2枚看板政策を「新事業領域」と「生産性向上」と言い換えたことは、建設企業にとって的を射た例えだと思う。足元の経営環境とは別に、大手、準大手、中堅、中小企業に至るまで、中長期市場展望は「国内公共工事の新設縮小は避けられない」という見方でほぼ一致する。確保された予算は積み上がったストックインフラの維持・修繕・改修へこれまで以上に充てなければならないからだ。

     

     だから建設企業は、さまざまな新事業領域の獲得への模索と人口減少という外的要因から業務効率や生産性向上などで生産システム改革に否応なく対応せざるを得なくなった。これはまさに、企業・組織の「強靱化」だと言える。

     

    E その意味で、これからの国会審議を経て15カ月予算が確保され継続・安定的に業務・工事が発注され続けたとしても、そのことに満足していては駄目だということか。

     

    D それぞれの企業の強靱化を図り、やがて到来するさまざまな構造転換に備えることが必要だと思う。

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    掲載日: 2021年1月4日 | presented by 建設通信新聞

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