当サイトについて 採用ご担当者様
会員登録はこちら 求人検索

建設技術者向けNEWS

建設技術者の方が知りたい情報を絶賛配信中
会員登録いただくと無料で閲覧可能です!

  • 炭鉱のカナリア〈構造転換〉(1)

    【急ぐ「生産」「組織」の強靱化/かぎは脱炭素/リセット 生みの苦しみ/領域拡大と生産性向上が柱】

     

     政府は2020年12月25日、経済と環境の好循環をつくっていく産業政策、グリーン成長戦略を決定した。戦略は、50年に排出と吸収で温暖化ガスを実質ゼロにするための工程表。再生可能エネルギー導入比率を高めるほか自動車の電気自動車化、住宅・建築物などで脱炭素化を進める目安を示すことで、民間からの投資を加速させ成長のてこにするのが狙い。新型コロナウイルス感染拡大というパンデミック(世界的大流行)の危機を乗り越えるための世界的なキーワードは、21年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)のテーマでもある「グレート・リセット」。端的に言い換えれば、構造転換だ。建設産業は今後どこに向かうのか。

     

     20年12月に相次ぎ決定した20年度第3次補正予算案と21年度予算案を加えた「15カ月」予算案は、125兆7858億円まで拡大する。新型コロナ感染拡大防止を最重要施策に、「脱炭素(グリーン)」と「デジタル化」を経済回復と成長の2枚看板政策としてコロナ対応との両立を菅政権は目指す。

     

     そもそも世界で爆発的な広がりを見せる新型コロナは、各国経済が複雑に相互依存している実態を改めて浮き彫りにした。建設産業界でも、世界で先駆けて新型コロナ感染拡大が顕在化した中国と各国との交流が途絶したことで、中国国内生産品であるトイレなどの機材が調達できない問題に直面した。

     

     菅義偉首相が昨年10月の所信表明演説で、「2050年カーボンニュートラル」を宣言、脱炭素とデジタル化を経済回復と成長の看板政策に据えたのは、新型コロナ問題以前から欧州を中心に脱炭素を柱に社会や経済の構造改革を進める動きが、コロナを契機に加速している背景もある。

     

     例えば、昨年12月25日にまとまったグリーン成長戦略で成長が期待される14分野・産業の筆頭に挙げられたのは「洋上風力産業」や「原子力産業」などエネルギー関連産業だが、国内産業育成への明確な道筋はついていない。また原子力産業のうち小型炉(SMR)については30年までに日本企業が主要サプライヤーの地位を獲得することを工程表に明記したが、より安全に配慮した原発小型炉は米国、欧州などを中心に50以上の小型モジュール炉が開発中と言われ、日本は完全に出遅れている。

     

     それにもかかわらず政府が脱炭素へ再生エネルギー比率を5割超まで高めるグリーン成長戦略に明記し、土木インフラや住宅・建築物産業など14産業の政策を総動員する。経団連も脱炭素に対して昨年6月から「チャレンジ・ゼロ」プロジェクトを立ち上げて政府と共同歩調を取っているのは、温暖化への対応が、経済成長の制約やコストだと判断される時代は終わり、成長の機会と捉える動きが世界の潮流になっているからだ。

     

     脱炭素が世界の潮流である場合、日本にとってどのような影響があるのだろうか。

     

     11年3月の東日本大震災を契機に原発停止だけでなく原子力依存度の低下は国論となり相対的に再生可能エネルギー拡大論が台頭、太陽光発電がけん引した。その当時から議論されていたのが、洋上風力発電の導入だった。導入論者は、大型化が可能であることのほか、部品点数の多さから新たな産業を創出できることを主張した。

     

     自動車産業が基幹産業の1つと言われるのは、部品点数3万点程度と裾野が広いことが大きな理由でもある。しかし現在のガソリン車から電気自動車に移行すると部品点数は半分以下になると言われ、現在のピラミッド構造の自動車製造・部品供給網は大きく崩れる。

     

     だからこそガソリン車から電気自動車に置き換わることで、こぼれ落ちる中小企業の業種転換を視野にしたさまざまな支援策と、新産業創出は重要課題だった。

     

     脱炭素は建設産業にとっても、現場のCO2抑制や環境配慮の資機材採用などに迫られるほか、化石燃料消費抑制は、アスファルト合材の調達に影響を及ぼす可能性も否定できない。

     

     ただ建設産業にとっては、既に人口減少と高齢化問題を受け、建設生産システムの中核である技能労働者の確保と育成取り組みに着手、デジタル革新加速もあり、生産システムの省人・省力・自動化など抜本的な改革が進んでいた。まさに生産と組織の強靱化を目指す建設産業の構造転換を進めている真っ最中と言える。

     

     ここで冷静に考えるとグローバルに脱炭素社会が進むことで、自動車産業が産業の構造転換に迫られていることと同じ事が建設産業にも突きつけられるのではないか。デジタル革新による労働生産性向上が日本の産業全体に問われているからだ。だから企業規模を問わず建設企業は、絵空事ではない産業の構造転換、言い換えるとリセットが早晩訪れることも念頭に生産システムを担うサプライチェーン(供給網)含む組織・経営体質の強靱化を急がなければならない。

     

     まさにことしは、さまざまな分野で構造転換を求める新たな時代を迎えようとしている。

     

    *炭鉱のカナリア

      炭鉱労働者がカナリアを籠に入れて坑道に入り、有毒ガスが発生した場合カナリアが察知して知らせてくれることが言葉の由来。何らかの危険が迫っていることを知らせてくれる前兆を指す。

    残り50%
    ログインして続きを読む 会員でない方はこちらよりご登録ください

    掲載日: 2021年1月5日 | presented by 建設通信新聞

前の記事記事一覧次の記事