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炭鉱のカナリア5〈縦割り〉
// 本文の表示 画像がセットされていない場合は、画像分の余白ができてしまうのでtxtクラスは使わない。 ログインしていない場合も画像は表示しない。?>【国交省と自治体の関係も変化/人口減少、高齢化、成長戦略/始まった産業の構造転換】
2020年末、国交省から各建設業団体に1つの事務連絡通知が届いた。内容は、総務省との連名で都道府県担当部長らに宛てた「公共工事の入札及び契約の適正化に向けた都道府県公契連との連携体制の強化について」文書の参考送付。生産性向上と現場従事者の週休2日拡大など働き方改革取り組みへの圧力が高まることにさまざまな理由から頭を抱える全国各地の中小元請けへの国交省産業行政からのエールだったのかもしれない。この文書が同年末までに国交省が全国各地で中小元請団体などと行った意見交換で焦点となった課題を解決する糸口だからだ。
これまで国交省が各地で中小建設業団体と意見交換をする場合、団体からの意見・要望の半分は常に回答できずにいた。改善対象が地方自治体で、強い指導を国交省に求めたからだ。公共工事を主力とした元請けの地域企業の最大顧客は自治体。直轄で進めていることが自治体では行われていない中で、元請けとしての取り組みだけは全国企業と同じレベルを求められることに不安と不満が高まるのは無理もなかった。
一方、国交省も全公共発注者の取り組み課題である「適正工期の設定」「発注・施工時期の平準化」へ向けた自治体支援を多角的に進めた。調査で平準化が進まないことが浮き彫りになった人口10万人以上の市(136団体)には個別ヒアリングも実施。国交省産業行政が市レベルの個別課題に踏み込むことは異例だった。
そもそも国交省が指導する関係にはない自治体と国交省の入札・契約関係での連携体は、発注行政を柱にした「発注者協議会」がある。さらに事務系(産業行政)が参加する「ブロック監理課長等会議」も年2回会議を開く。ここに新たに加わるのが、産業行政が参加する公共工事契約業務連絡協議会(都道府県公契連)。47都道府県のうち開催未定の自治体もあるが、各都道府県公契連が開催されれば、市町村に改善を直接働きかけることができる。国交省としては大きな枠組みとして「発注者協議会」と「監理課長等会議」に「都道府県公契連」が新たに加わる。また産業行政の側面から見れば、市町村の契約担当に産業行政の立場から直接働きかけが可能になる。国交省の担当者は自治体との連携の場が増えたことに「ダブルトラックの効果を上げたい」と期待を寄せる。
こうした国交省の取り組みに全国各地の中小元請けは一定の理解を示しながら、自治体工事での競争激化による影響や入札の不調・不落の根本原因に強く迫りつつある。一例が、業界自らが掘り起こした「乗率」問題だ。
発端は業界団体の支部長を務める中小元請け社長の一言だった。「おかしい。これじゃ予定価格100%で受注したって赤字だ。何かが変だ」。この一言をきっかけに支部を挙げて、同じ自治体のほかの案件の予定価格を調べ、最終的には情報公開制度を使って公共建築工事の予定価格の根拠開示を請求した。
「この乗率による価格で調達できるのは全国企業だ。調達額が少ない中小企業がこの割引価格で購入できるわけないじゃないか」。開示書類を見て地元企業社長らは初めて、予定価格を構成する単価が実勢価格にするためにそれぞれ細かく決められた掛け率に応じて単価が決まる、いわゆる乗率一覧を目にする。これまでも小規模工事向けパッケージ積算、歩切り撤廃など、要望一辺倒だった中小元請団体も、調査や証拠など一定のエビデンスに基づき行政と相対するようになってきた。
ただ、地方建設業界にとって、とかく国交省と対応の内容・スピードが違うことを問題視される自治体だが、ごく限定的ながら入札・契約制度で、国交省でも実現できていない業界にとって歓迎すべき取り組みをローカルルールとして実現しているケースもある。
構想・計画・設計・施工・維持管理までそれぞれの工程で役割分担、すみ分けができていた時代は大きく様変わりした。競争の土俵もそれぞれのすみ分けがあいまいになったことや技術革新に伴って拡大。市場は、より川上と川下双方に広がる。その一方で、新たな事業領域と市場の規模は各社の判断と取り組みに左右されるのが特徴だ。
「港は産業を生む」(五洋建設の清水琢三社長)、「企業価値の体系化として無形資産も顧客に評価してほしい」(戸田建設の今井雅則社長)、「ニーズ(需要)アプローチが必要」(前田建設の前田操治社長)、「人がすべて。競争領域は人材」(西松建設の高瀬伸利社長)…。人口減少と高齢化、新型コロナ感染拡大とコロナ後を見据えた成長戦略。生産性向上と働き方改革にとどまらない建設産業の構造転換に向け大きく動き出したことは、企業トップの発言からも明らかだ。(おわり)
残り50%掲載日: 2021年1月12日 | presented by 建設通信新聞