建設技術者向けNEWS
建設技術者の方が知りたい情報を絶賛配信中
会員登録いただくと無料で閲覧可能です!
-
特別寄稿・新型コロナが変える世界地図/佐藤総合計画社長 細田雅春
// 本文の表示 画像がセットされていない場合は、画像分の余白ができてしまうのでtxtクラスは使わない。 ログインしていない場合も画像は表示しない。?>【世界の“力学的地図”変更が都市の次なる姿に影響】
新型コロナウイルス感染症の世界的な猛威が、経済のみならず政治のパワーバランスを再構築する勢いである。既に1月末の時点で、世界中の新型コロナの感染者数は累計で1億人を超えているという状況の中、この災禍を抑え込む力のある国が世界を支配する覇者になるのではないだろうかという気にもさせられるほど、予断を許さない状況にある。最大の感染国である米国では感染者が2600万人を超え、死者数も45万人を数える。EU(欧州連合)などのヨーロッパ諸国では、英国で400万人に迫る勢いで、次いでフランス、スペイン、イタリア、ドイツなどにおいても数百万人が感染しているという危機的な状況である。
こうした欧米諸国の累計だけでも世界の感染者数の過半に迫る勢いである。米国に次いで感染者の多いインドやブラジルのほか、ロシアなどの感染者の多さにも注目しなければならないが、その一方で、現状では比較的感染の拡大を抑え込むことに成功している国もある。そうした国の中でもとりわけ目立つのは、新型コロナウイルス感染症が最初に報告された中国の動きではないだろうか。一時は医療崩壊すらささやかれたほどだが、現在、一種鮮明なと言ってもいいほどの回復の成果は、これからの世界の構図を予測する上でも大きな影響を持つものであろう。
中国が世界最速レベルで新型コロナから回復した理由は、まず第一に全体主義的国家であること、すなわち共産主義の統制国家という体制であることが挙げられよう。国民のあらゆる情報を把握し、支配する体制が整っているということである。そして、そうした体制強化を進めるために情報デジタル立国を世界に先駆けて目指してきた背景がある。現在のBATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)の成功も、中国がITに賭けてきた戦略が功を奏したものと言える。しかしながら、BATHを始めとするIT企業が巨大化するにつれ、それらの目指す方向性が党の思惑と異なるという現実にいら立ちと焦りが見え隠れするようになってきた。そうした矛盾を抱えながらも、中国の戦略があるのである。
既に、欧米各国が感染拡大を受けたロックダウンなどの対策によって経済的に深刻な状況にある中、中国との距離感をどのように保つのか、新たな対中政策が模索され始めている。例えば、ドイツは中国との投資協定の締結を図り、英国もEUとの調整にいまだ難航している中、中国との経済連携を模索する動きがある。新型コロナを制御し、いち早く経済を立て直した国が世界の主導権を握るという事態が現実になろうとしている。そして、そこに最も近いのが中国である。
■経済を立て直した勝者が主導権握る
先日就任した米国のバイデン新大統領は、米国第一主義を掲げてきたトランプ前大統領の路線からの転換を図っている。例えば懸案だった気候変動対策や貿易協定などを始め、世界各国との幅広い分野での協調関係の再構築を打ち出しつつある中、中国との関係はトランプ政権の強硬姿勢を継承するとの見方が大勢を占めている。もちろん、それでも世界の構図が各国の対中政策にあることは明白な事実であろう。ロシアやイランの動きにも注目する必要がある。
一方で、英国とEUの関係も見落とすことはできない。英国は既にEUからの離脱を達成したが、その先は見えていない。依然、英国の産業の停滞が改善される見通しもないからである。ジョンソン政権は外国人労働者の排除を試みているが、安価な外国人の労働力は経済の推進役でもある以上、英国の主要な産業である自動車などの空洞化は深刻なままである。ホンダなど外国企業の撤退も英国の経済に大きなダメージを与えている。
こうした状況にあって、中国との経済的協調関係を新たに見直すというのはいわば当然であろう。EUとの関係も再考されるべきであることは英国自身がよくわかっているはずだ。同時にTPP(環太平洋経済連携協定)への参加を表明したことで国際的な存在感を示そうとしている。
■ウイルスとの共存へ新たな世界構築必要
いま、世界中で経済の立て直しが進められている。新型コロナの終息へ向けてワクチンに期待が持たれているが、ワクチンがすべての解決になりえるという確信はない。何が終息をなしえるのかがいまだ定かではなく、経済的な苦境からの脱出方法も見えてこない現在、中国が早々に経済的成長を示し始めたことに対して、政治体制を批判しながら経済的連携を模索しているという事実に、各国の思惑がまだら模様に浮き上がって見える。
経済、そして政治、その結果に世界の中における国力が示される状況が現在である。ロックダウン状態にある都市がいつ健全に再始動することになるのかは、まさに現在の世界各国の動向が示しているとおりだ。そして、都市の次なる姿がどのようになるのかは、世界の力学的地図の変更とともに考える必要があるだろう。中国が進めつつある都市戦略に与するだけではないからである。
その上で、ウイルスとの共存を考えることはこれから必須となるだろう。新型コロナが仮に終息を迎えたとしても、さらなるウイルスの発生は起こり得る。ウイルスとの共存を踏まえ、都市や建築のレベルに至る新たな世界構築が必要になるだろう。世界が一変するほどの大転換が起きるのではないか。
そうした世界の構図が変わろうとしている時、日本の現在の状況を見るにつけ、誰が冷静に国家的進路に示唆を与えることができるのか。心配するのは筆者だけではあるまい。
残り50%掲載日: 2021年2月17日 | presented by 建設通信新聞