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建設論評・山と谷
// 本文の表示 画像がセットされていない場合は、画像分の余白ができてしまうのでtxtクラスは使わない。 ログインしていない場合も画像は表示しない。?>株価と実体経済との乖離(かいり)が話題になって既に久しい。「空元気」のようにさえ見える。株価は、実体経済や企業業績はもとより、さまざまな要因が複雑に絡み合って上下するため、乖離に似た現象が起きても不思議ではない。世界的なコロナ対策、金融緩和の潮流で、株や不動産などに資金が流入しているとの指摘もよく耳にする。
ただ、観光や飲食などの業種では苦戦を強いられている状況に変わりはない。業種間での二極化傾向がさらに鮮明になった。一方、同一業種でも業績の二極化傾向を指摘する声が多い。ビジネスの世界は冷酷だ。勝ち組と負け組が誰の目にも明らかになってしまう。
株価の上昇そのものは基本的に喜ばしい。しかし、山があまり高くなりすぎると、その反動が心配だ。「山高ければ谷深し」という有名な投資格言もある。繰り返し押し寄せる山と谷をどう乗りこなすか。投資家や企業経営者にとって普遍的な課題の1つでもある。
建設業界ではここ数年、ゼネコン各社の好調な業績が続いてきた。工事受注が増え、利益率は向上し、技能労働者の賃金アップに向けた筋道も付いた。業績アップは、さまざまな好循環をもたらす。
過去を振り返れば、バブル経済の崩壊から平成不況、公共事業バッシング、過度な受注競争、利益率の極端な悪化、技能労働者の賃金低下など、建設業界にとっては長い冬の時代が続いた。悲観的なマインドを払拭(ふっしょく)したくてもできない状況だった。それだけに、ここ数年は得も言われぬ安堵(あんど)感に包まれていたようにも見える。これもまた山と谷が織りなす典型的な情景だ。
こうした状況がいつまでも続いてほしいと願うばかりだが、山と谷の波はわれわれを待ってはくれない。実際、既に一部の案件では、ゼネコン各社による受注競争が激化している。特に全国的に目立つのは庁舎など公共施設の入札だ。低入札価格調査の基準価格を下回る応札が相次いでいる。いったんは落札保留となるものの、調査を経て契約に至るケースがほとんどだ。
庁舎などの建築工事は、土木工事などと異なり設計変更による利益の挽回もそれほど見込めない。建設工事での利益確保は現場所長の腕の見せ所だが、スタートラインの受注価格があまりに低ければ、現場での創意工夫も焼け石に水となりかねない。ここ数年でようやく回復した利益率だが、こうした案件が積み重なっていけば下降圧力が高まる。
一度こうした流れができてしまうと、ブレーキをかけるのは難しい。ブレーキを踏めばライバル会社に出し抜かれるだけだ。入札は情報戦と言われるが、心理戦の色合いも濃い。
まだ深刻な事態には至っていないが、建築の利益率が超低空飛行を続けた前回の谷が脳裏をよぎる。業績悪化は、さまざまな負のスパイラルを生み出しかねない。最も心配なのは、技能労働者の賃金への影響だ。建設業界の未来のため、何としてでも賃金水準だけは死守してほしい。 (泪)
残り50%掲載日: 2021年2月24日 | presented by 建設通信新聞