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建設論評・タワーマンションを考える
// 本文の表示 画像がセットされていない場合は、画像分の余白ができてしまうのでtxtクラスは使わない。 ログインしていない場合も画像は表示しない。?>都市住居のあり方についてはさまざまな見解があるが、大都市ばかりか、地方都市にも増えているタワーマンションを始め、都市部に壁をつくるような中高層マンションの弊害について本稿では何度も述べてきた。それでも、ユーザーの願望か、デベロッパーの戦略か、あるいは自治体の生き残りをかけた切り札なのか、市場は活況を呈している。そんな折、日本経済新聞がタワーマンションの問題を取り上げていた(4月27日付朝刊)。「住民を争奪」や「高度成長期モデル捨てきれず」など多少過激な見出しを見て、大いに後押しをしたいと思ったのである。
筆者はまず、高層マンションの生活の場としてのさまざまなリスクを指摘してきた。例えば、救急時の搬出には高層階ほど困難になるという点だ。また、地域社会を生み出す横のつながりが極めて限定的になる点も、つとに指摘されている。眺望や交通の利便性などの魅力はあるが、それは一面的な見方に過ぎない。
すなわち、これから超高齢化と人口減少に向かう日本の社会構造を見ないで、スポット的に利益を誘導することは単に無益だからである。人口減少による活力低下を危(き)惧(ぐ)するあまり、行政が長期ビジョンもないままに民間の事業を後押しすることが正しいのか。また、規制緩和によりこれ以上にタワーマンションの建設が進めば、インフラや公共施設の維持管理など公的な財政負担はさらに増加するだろう。その膨大な負担は、明らかに人口減少に耐えられない。それゆえ、自治体間で住民争奪戦が始まっているのである。こうした悪循環の中、人口減少社会へ向けたビジョンを明確化する必要がある。
また、空き家問題にも触れる必要がある。高層マンションの空き家は一層深刻である。一気にスラム化する可能性があるからである。米国などでスラム化がもたらした悲劇を忘れてはなるまい。日本の住宅産業は世界的に見ても過剰投資であり、中古市場の流動化が進みにくいとも言われているが、その原因は、新築を好む日本のユーザーと、そうした傾向をあおりたてる事業者双方にある。
都市と集合住宅の関係は、社会という絆があってコミュニケートできる土壌をつくるということから始まっているが、現代社会においては個人の利害や利便性によって地域の人間的つながりが分断されてきた。それに立ち戻ることが可能なのかはわからないが、超高齢化、人口減少社会という現実に応えていくためには、タワーマンションの乱立のような現象を徐々にでも制御すべきなのではないだろうか。
そのために何をすべきか。これも繰り返し言い続けていることだが、コンパクトシティーへのかじ取りを国を挙げて行うことだ。もちろん現実は容易な道のりではないが、もはやほかに有効な方策はないと思っている。
いずれにせよ、規制緩和による郊外の乱開発や都市部の容積緩和などは再検討されるべきだろう。人間らしい暮らしを営める居住空間は地上に近く、緑や水に触れられ、人々との豊かな交流がなくてはならないからである。 (児)
残り50%掲載日: 2018年5月30日 | presented by 建設通信新聞