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  • 経営軸線・ゼネコンの道筋(中)

    【4期連続の粗利10%超えへ/受注時採算の底上げ続く】

     

     3年前からゼネコンの採算効率は上昇に転じた。上場大手ゼネコン4社の完成工事総利益(工事粗利)率は直近2018年3月期で平均15.0%。前期に比べ1.1ポイントも伸びた。過去に例がないほどの高水準で推移する。工事粗利の10%超えは16年3月期から3期連続となった。

     

    797-1完成工事総利益率の推移

     

     過去を振り返れば、工事採算の改善は大手各社にとって最重要課題だった。「量より質」を経営方針に掲げ、現場は徹底した自助努力を推し進めてきたが、それを上回る受注競争の激化にあおられ、採算性は低水準にとどまっていた。10年前の工事粗利(4社平均)を見ると、08年3月期に4.6%、09年3月期に4.2%、10年3月期には3.9%と、過去最低水準にまで落ち込んだ。これは経済に大打撃を与えたリーマン・ショックの時代と重なるが、それでも15年3月期までほぼ5%台の低空飛行を続けていた。

     

     状況が一変したのは、16年3月期に入ってからだ。土木、建築とも工事粗利は10%を超え、その状況は今19年3月期も続く見通し。背景にあるのは受注環境の好転だ。東日本大震災の復興工事が進む中、東京五輪の誘致に成功した日本国内では景気がゆるやかに上昇局面を迎え、首都圏を中心に建設需要の増加が鮮明に見え始めるようになった。東京都心部では大型再開発が一気に動き出し、それに呼応するように本社建て替えや事業所移転に加え、工場や物流施設の計画も活発になった。

     

     これまで様子をうかがっていた民間顧客は堰を切ったかのように設備投資に動き、大手各社には仕事の依頼が相次いだ。連鎖するように準大手クラスにもこれまで大手が手掛けてきた規模のプロジェクトが舞い込むようになり、ゼネコンを取り巻く受注環境は一変した。現在は10年前のし烈な受注競争の様相は影を潜め、ゼネコン各社は自らの施工体制をにらみながら計画受注を強めている。

     

     苦しめられてきた国内の不採算案件はほぼ一掃され、しかも受注環境は競争が薄れたことによる買い手市場の色合いが一気に強まり、それが受注時採算の大幅な向上につながっている。工事を請け負った段階からある程度の利益を見込める状態が続いているのが現在の状況だ。過去の大競争時代は受注時に赤字すれすれでも施工時のVE提案による設計変更を繰り返し、現場は利益確保にまい進していた。現在は施工体制を維持するための労務確保に奔走している。

     

     工事粗利の上昇は現場が生産性向上への取り組みを加速している自助努力の側面もあるが、やはり受注環境の好転による底上げの恩恵が大きい。各社は受注時採算の高い良質な手持ち工事を着実に積み上げており、それらが完工するまでの間は安定した利益を見通せる状態だ。公共工事も設計変更に伴う追加利益を認めてもらえる状況にあり、土木と建築ともに事業環境は良好。「少なくとも20年度まではいまの状況が続くだろう」。そうした声はゼネコン各社から聞こえてくる。

     

     直近18年3月期の工事粗利は土木工事が上場大手4社とも前期実績を上回り、建築工事では13%台を維持した清水建設が若干下回ったものの、残る3社は12-14%台とし、いずれも前期を上回った。特に土木工事では鹿島と大成建設が20%を超えた。今19年3月期は4社とも18年3月期実績を下回る予想を立てるが、それでも大林組と大成建設は13%台、鹿島と清水建設は11%台を見込み、4期連続の10%超えは確実な状況にある。

     

     労務や資材などの価格上昇懸念はあるものの、現時点では一定程度は吸収できると見ており、原価構成のトレンドは大きく変わらない見方が広がっている。とはいえ19年3月期の業績予想では、大手4社はそろって増収を予想しているが、増益を見込むのは大林組と清水建設の2社。あえて鹿島と大成建設は営業利益ベースで3割減という厳しい見方をしている。

     

    797-2受注高の推移

     

     「好機を次なる備えに」と、各社のトップが力を込めるように、本業の工事採算が高水準に推移する中、大手は将来の成長に向けた新たなビジネスモデル構築の準備を着々と始めた。今後の経営環境の変化を見据えるとともにESG(環境・社会・企業統治)の観点を踏まえた対応も含め、経営のかじを大きく切ろうとしている。大手は成長への一歩を力強く踏み出した。

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    掲載日: 2018年6月15日 | presented by 建設通信新聞

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