ゼネコンの下請けとして建築工事の一部を担う「サブコン」各社にはそれぞれ得意分野があります。
今回は、サブコン業界で管工事に強い大手5社をご紹介するとともに、今後のサブコン業界について解説していきます。
設備工事と一口に言ってもその内容は様々で、大きく分けると電気工事、電気通信工事、管工事があります。これらの設備工事を全て担う総合設備会社もあれば、特定分野の設備工事のみを請け負う設備会社もあります。
その中でも、本記事でご紹介する『管工事業』は各種のパイプやダクトの設置を専門としている企業で、「高砂熱学工業」「大気社」「三機工業」「ダイダン」「新日本空調」が業界を牽引しています。
「管工事業」とは、建物の設備工事のうち、主に冷暖房設備・空調設備・ガス管配管設備・浄化槽設備・上下水道配管設備・給排気ダクトなど、各種のパイプやダクトを設置する専門業者を指します。
業界全体の2019年3月期の業績は、上位10社中9社が増収、うち4社(高砂熱学工業、三機工業、ダイダン、テクノ菱和)は増収増益と好調を維持しています。2020年度3月期については10社中7社が増収、うち高砂熱学工業、大気社、ダイダン、日比谷総合設備の4社が増収増益を予想しています。
それでは、上位5社を個別に見ていきましょう。
売上高 | 経常利益 | 従業員数 | 平均年齢 | 勤続年数 | 平均年収 |
---|---|---|---|---|---|
3,208億9,300万円 | 192億8,600万円 | 2,064人 | 42.0歳 | 16.1年 | 878.9万円 |
※2020年3月期の有価証券報告書より作成 ※売上高・経常利益は連結ベース。他は単体 |
1923年に「高砂煖房工事株式会社」という社名で設立し、当初は建物の冷暖房設備工事に注力していました。今ではサブコン業界の空調設備工事首位を誇る、環境エンジニアリング企業です。
高砂熱学工業は空調設備工事において高い技術を持ち、数多くの特許を取得、豊富な施工実績を上げています。東京ドームや日本武道館、東京証券取引所などあらゆる分野の大規模工事を手掛けています。海外にもグループ会社を抱えていて、アジアを中心に10ヵ国で事業を展開して順調に売上高を伸ばしています。
今後はさらに新規事業に乗り出し、2023年の創業100周年に向けて総合エンジニアリング企業への転換を目指しています。
売上高 | 経常利益 | 従業員数 | 平均年齢 | 勤続年数 | 平均年収 |
---|---|---|---|---|---|
2,253億7,800万円 | 159億9,100万円 | 1,483人 | 43.6歳 | 17.8年 | 1076.5万円 |
※2020年3月期の有価証券報告書より作成 ※売上高・経常利益は連結ベース。他は単体 |
1913年の創立から建物の空調設備事業を軸に事業を展開し、今では「環境システム事業」「塗装システム事業」の2つを柱に成長を続けています。
サブコンのなかでも、自動車などの塗装プラントを対象とする塗装事業は珍しく、航空機や鉄道車輌の塗装事業にも着手し、将来的には業界トップの立ち位置になる事が期待されています。
売上高 | 経常利益 | 従業員数 | 平均年齢 | 勤続年数 | 平均年収 |
---|---|---|---|---|---|
1,940億1,800万円 | 112億2,400万円 | 1,992人 | 43.2歳 | 18.5年 | 913.6万円 |
※2020年3月期の有価証券報告書より作成 ※売上高・経常利益は連結ベース。他は単体 |
90年以上の歴史をもつ三井グループの総合エンジニアリング企業「三機工業」は、空気調和、給排水・衛生、電気、情報通信、オフィス移転等の建築設備事業のほか、機械システム事業、環境システム事業といった幅広い事業を展開しています。
事務所や商業施設、医療施設や文化施設、工場、空港・鉄道など様々な用途での施工実績を持ち、取引先が官公庁や大企業が多い特徴があります。
ゼネコン以外に取引先が多い理由としては、多種多様な施工実績がある事に加えて技術力の高さも要因でしょう。三機工業は地球環境課題解決の実現を目指し、省エネルギーにおいて技術の向上に励んでいる企業でもあるのです。この取り組みは社会からの評価が高く、平成30年度には資源エネルギー庁長官賞を受賞しています。
今後も社会のニーズに合わせた動きに期待が寄せられています。
売上高 | 経常利益 | 従業員数 | 平均年齢 | 勤続年数 | 平均年収 |
---|---|---|---|---|---|
1,692億2,900万円 | 92億8,200万円 | 1,507人 | 42.7歳 | 18.2年 | 924.7万円 |
※2020年3月期の有価証券報告書より作成 ※売上高・経常利益は連結ベース。他は単体 |
ダイダンは1903年の創立以来、電気・空調・衛生などの設備工事を専門的に行う東証一部上場企業です。病院や工場、商業ビルなど全国の大型建築物に携わり、最高裁判所や東京国際空港旅客ターミナルビル、新国立劇場といった有名建築物の施工実績を持ちます。
独自の省エネルギー技術や蓄熱技術、施工実績をデータベース化した「ダイダン施工基準」は業界でも一目置かれています。
今後の課題は、独自技術をさらに高め、地球環境に配慮した設備工事と大型建築物のリニューアルを担うことです。
売上高 | 経常利益 | 従業員数 | 平均年齢 | 勤続年数 | 平均年収 |
---|---|---|---|---|---|
1,201億600万円 | 68億1,000万円 | 1,099人 | 44.2歳 | 16.4年 | 793.3万円 |
※2020年3月期の有価証券報告書より作成 ※売上高・経常利益は連結ベース。他は単体 |
新日本空調は2019年10月に設立50周年を迎えた「環境ソリューションカンパニー」で、独自のエンジニアリングシステムを用いて空調に関する施工を行います。社名の通り、空調を核とし事業を展開している設備会社です。
商業施設やオフィスビル、ホテルなど身近な建物から工場や原子力施設など、豊富な施工実績をもちます。新築、リニューアル、原子力空調、産業空調、研究開発といった事業を展開しており、受注工事高、完成工事高ともに右肩上がりとなっています。
日本国内で始めて地域冷暖房システムやクリーンルームの設備施工を行うなど、空調業界を牽引する存在です。空調に関して業界屈指の技術をもち、空気調和・衛生工学会から学会賞を受賞した歴史もあります。
三井系の東証一部上場企業のこともあり、安定性があるでしょう。
※同社の事業は設備工事事業単一、かつ売上高の90%以上が国内のためグラフの掲載は省略します。
国内での建設需要が低下すると、元請けであるゼネコン(総合工事業)やゼネコンから発注を受けるサブコン業界はその影響をもろに受けるため、ともすれば将来性がないのではと思われがちですが、管工事を得意とするサブコンにおいては依然として成長性を感じられます。
近年は企業の環境への取り組みが重視されており、建設業界にもその波が押し寄せているのです。見送りにはなりましたが、国から建物の省エネ基準の義務化が通達されるほどです。
もちろん、海外展開や新たな事業展開への注力は欠かせませんが、それに加えて省資源や省エネの研究を進めていく事は必須となるでしょう。
環境に優しく快適な空間を作りだす事を考えればサブコン、とりわけ管工事業は国内と海外どちらにおいても必要な存在であり続けるでしょう。